研究課題/領域番号 |
26810025
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
長谷川 真士 北里大学, 理学部, 講師 (20438120)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | オリゴチオフェン / 三次元パイ共役系 / 酸化還元 / ホストゲスト化学 |
研究実績の概要 |
本研究ではイオウ架橋オリゴチオフェンでつくる新規曲面状ナノリングを設計し、その効率的な合成を行った。具体的には、2,6-ジブロモ[3,2-b:2',3'-d]ジチオフェン誘導体とジブチルスズスルフィドを用いたPdクロスカップリング反応によって、イオウ架橋の環状化合物を高収率で得ることに成功した。四量体から最高で十量体までの環状オリゴマーが得られ、最も良い条件では環状化合物の収率の合計が75%と非常に高い結果となった。 これをもとに、各環サイズのオリゴマーを大量に得ることが可能となり、物性ならびに構造について明らかにすることができた。単結晶X線結晶構造解析より、四量体は一辺が約0.9nmのシクロブタン様の構造をとることがわかった。また、分子は空孔が重なるようにチャネル状に積層していた。一方,五量体は約1.2nmの空孔を有するenvelope型の構造であった。中性において、四量体-七量体までのジクロロメタン中の吸収スペクトルからは、イオウ原子を介しての共役の広がりは確認できなかった。 一方で、四、五、六量体のCV及びDPVを測定した結果,それぞれ三段階、五段階、六段階の可逆的な酸化還元波が観測され、複数の酸化種の存在が示唆された 。これらの酸化状態における吸収スペクトルを分光電気化学的測定により行うと、酸化状態において架橋部位の硫黄原子を介して電荷が環状に非局在化していることが示唆された。 フラーレンとの複合体形成について調査した。四量体はフラーレンと安定な1:2錯体を形成し結晶を与えた。X線結晶構造解析によれば、四量体の上下に2つのフラーレンが包接されていた。また、五量体、六量体に関しては溶液中での強い会合挙動が示唆され、クロロベンゼン中大きな会合定数を示すことがわかり、いずれの環状化合物においても超分子複合体の形成を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では新しい三次元パイ共役系の構築に向けて、高効率な環化反応を確立した。特に芳香環をジブチルスズスルフィドを用いて環状化する手法は、種々のパイ共役系分子の環状化の効率的な合成法になりえる。今回の手法により様々なサイズのイオウ架橋の環状オリゴチオフェンのアクセシビリティーが向上し、その特異な物性と構造を初めて明らかにすることに成功した。とりわけ、酸化状態における共役の存在は、分子全体および空孔の電子状態に大きな摂動をあたえることが分かった。また、高い対称性と剛直性に由来した超分子複合体をけいせいすることで、フラーレンを高秩序に近接して配列させることができ、新たな物性探索にむけた視座が開けた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究課題として、第一に包接錯体における電荷移動やエネルギー移動および電気化学的物性に関する調査を行う。これらは、ドナーであるチオフェンオリゴマーとフラーレンが整然と配列しながら近接しているため、電荷移動と光物性の相関などを探索する。第二に、現在のナノリングをさらに化学修飾し、完全に共役したベルト状のマクロサイクルへの変換をめざしてゆく。架橋部分のイオウ原子は合成の課程で脱硫することが可能であり、今後、さらなる合成を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、分取カラム2本購入予定(JAIGEL-2.5HH x2本)であったが、GPCチャートにおいて複雑な環状化合物の解析を行うためには、データ収集システムによるデジタル解析が不可欠であることがわかった。そのため、購入予定のカラムを1本に変更し、ソフトウェアおよび信号変換システムを購入した。分取カラムにおいてはポンプ等の改良により研究室で使用していなかったJAIGEL-1.5Hとの組み合わせにより、今のところ1本でも十分な性能を発揮することがわかった。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度では,合成した環状化合物を変換するために必要な試薬および溶媒、ガラス器具の購入費として使用する。また,超分子複合体の薄膜への展開もふまあえて、スピンコーターなどの購入も計画している。その他,国内外の各種学会参加費として利用する予定である。
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