本研究では、Pd触媒を用いたジブロモチオフェン類とヘキサブチルスタンニルスルフィドとのクロスカップリング反応を用いて、イオウ架橋の環状オリゴチオフェン類(ナノリング)の高効率合成を確立した。この反応は一定の嵩高さを持つチオフェン類を用いることで、簡便かつ高収率で環状化合物が得られる。これらの化合物は、イオウ架橋のチアカリックスチオフェンと捉えることもできる。今回の研究では、チアカリックス[n]チオフェン(n=4-6)とチアカリックス[n]ジチエノフェン(n=4-10)を合計8種類合成し、その物性を調べた。環サイズが小さいチアカリックスチオフェンの一部は、トルエン溶液からゲル化することがわかった。水素結合が存在しないにもかかわらず、分子間で積層することがわかり、超分子構造の作製に新しい知見を与えた。環サイズが大きなチアカリックスジチエノフェンは、大きな空孔を持つ環状分子であり、溶液中でフラーレンなどを選択的に取り込むことがわかった。サイクリックボルタンメトリー(CV)法による酸化還元電位の測定では、複数の段階的な酸化還元反応が見られ、高いドナー性を持つことがわかった。X線結晶構造解析などにより、固体中におけるフラーレンとの複合錯体では、分子間接触が二次元的に広がっている。今後、光有機電気伝導などの新たな物性への足がかりを示すことができた。
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