研究課題
本研究は,これまでキラルな分子を触媒として用いるなど,分子キラリティーを用いて反応の選択性を制御する物が中心であった不斉反応に対し,結晶構造のキラリティーや表面構造のキラリティーといった分子配列が作り出すキラリティーを利用することで,分子不斉のない環境から不斉合成を達成することを目的としている。分子不斉のない環境から不斉合成を達成することは,有機合成上,非常に魅力的で革新的な合成手法となることに加えて,科学の未解決の課題である生命のホモキラリティーの起源を探る上でも重要な意味を持つ研究テーマである。前年度までの研究により,不斉自己触反応の高い不斉増幅力を利用することで,アキラルな有機化合物が形成するキラル結晶であるエチレンジアミン硫酸塩やベンゾフェノン誘導体類のキラル結晶を用いた不斉自己触媒反応における不斉誘導に成功している。また無機化合物の結晶として,レトゲル石(硫酸ニッケル6水和物)のキラル結晶による不斉誘導に成功し,さらに本研究を通して,結晶の相転移によるアキラル結晶からのキラリティーの発現や,アキラルなベンゾフェノンが形成するキラル結晶構造と分光学的なキラル物性の相関を明らかにするなど結晶構造のキラリティーに関する新たな知見を得ることにも成功している。本年度ではさらに発展的な課題として表面のキラリティーを用いた不斉誘導に取り組んだ。アキラルな結晶である石膏は特定の表面に着目すれば二次元のキラリティーを持ち,表面に吸着させた反応基質を用いて不斉自己触媒を行う事で結晶表面のキラリティーによる不斉誘導に成功した。本成果はアキラルな無機結晶の表面を用いて反応の不斉誘導を行った初めての例であり,国際会議での発表を行った事に加え,インパクトの高い学術誌であるAngew. Chem.誌に掲載されるなど高い評価を受けている。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 13件)
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