研究課題/領域番号 |
26810031
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 裕也 東京工業大学, 資源化学研究所, 助教 (90700154)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | π共役系 / 金錯体 / カルベン / 光物性 |
研究実績の概要 |
π共役系材料と金属イオンを組み合わせることで、金属イオンの特性を付与した新しいπ共役系電子材料の創出が期待できる。本研究では多環芳香環と金属イオンを組み合わせた、種々の酸化還元・光機能材料の創出を目指す。平成26年度は新規π共役系配位子の設計と合成を行った。具体的にはフェナンスレンおよびピレンを含むカルベン配位子を設計・合成し、金属イオンの導入を試みた。 カルベン前駆体となるピレンを含むイミダゾリウム化合物は4,5-ピレンジオンから3段階で合成した。これに、酸化銀(I)を作用させることで、銀カルベン錯体を合成した。AuCl(THT)とのトランスメタル化を行うことで、ピレンを含むモノカルベン金錯体を合成した。同定は各種スペクトルにより行った。ビスカルベン錯体の合成を種々試みたが、溶解性の問題により、単離には至っていない。一方、フェナンスレン配位子ではモノカルベンおよびビスカルベン錯体の単離・同定に成功しており、結晶構造解析によりその構造を明らかにした。ビスカルベン錯体では2つのフェナンスレンが平面構造をとり、J会合体を形成していることがわかった。 これら得られた錯体の光物性を調査したところ、溶液では配位子由来の1重項π―π*に由来する蛍光が見られたのに対して、固体ではマイクロ秒の寿命を持ち振動構造を示す発光が500~600nm付近に観察されたことから、配位子由来の燐光であると帰属した。さらにフェナンスレンのビスカルベン錯体ではモノカルベン錯体に比べ長波長の発光が観察され、π共役系の拡張効果が示唆された。またフェナンスレンビスカルベン錯体では異なる発光特性を示す結晶多形を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年では当初の計画通り、π共役系を拡張した配位子と金属の組み合わせによる、新規平面型金属錯体の合成に成功した。ピレンを含む配位子では溶解性の問題が明らかとなったが、カルベン配位子の側鎖を変更することで、解決できると考えられる。また物性面においては、配位子と金属イオンを組み合わせることで、固体物性に特徴的な燐光が見られ、配位子の数によりその発光波長が制御できることを見出した。また予備的な知見ではあるが、ビスカルベン錯体の固体結晶をメノウ乳鉢ですりつぶすことで、固体燐光性が大きく変化する現象を見出している。イミダゾリウム配位子のみではこのような減少は観察されていないことから、本現象は金属とπ共役系の協同的な効果に由来すると考えられ、今後の展開に期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では計画通り、π共役系拡張した平面型配位子およびその錯化に成功した。次年度では得られた錯体の集積特性について検討する。具体的には、初年度で得られたπ共役系を含む平面型カルベン錯体の固体特性について詳細に調査する。結晶溶媒の変更や機械的刺激などの外部環境や刺激の応答性を検討する。また、異なる集積方法として軸配位子を用いた、分子素子の連結を行う。これにより金属間の相互作用や、π共役系炭素平面間に生じる空隙を利用した、分子材料の機能化を試みる。
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