π共役系材料と金属イオンを組み合わせることで、金属イオンの特性を付与した新しいπ共役系電子材料の創出が期待できる。最終年度では金属錯体の多核化を中心に研究を行った。 前年度に構築した有機金属分子ワイヤーの多核化を行った。架橋配位子にはエチニルチオフェンを用い、有機金属ユニットには高い酸化還元準位を示すルテニウムテトラホスフィン錯体を採用した。これまでに二核有機金属分子ワイヤーの報告例は多数あるが、三核錯体を超える分子ワイヤーの構築法は確立されていない。末端にエチニルチオフェンを有する単核・二核・三核分子ワイヤーを短段階で合成することに成功した。電気化学測定の結果、二核・三核錯体においては強い金属間の相互作用に由来して金属核数に対応した酸化還元波が観測された。分光電気化学的では近赤外領域に電子の非局在化を示す強い吸収が観測され、分子ワイヤーとして高い相互作用が示唆された。 二次元平面上で高い電子伝達能を示す分子素子を目指して、ポルフィリンで架橋した四核ルテニウムアセチリド錯体を合成した。電気化学的測定・分光学的測定から混合原子価状態となる一電子酸化体・二電子酸化体で4つの金属間で高い相互作用が示され、ロビン・デイらの分類で完全に非局在化したClass IIIに分類された。本錯体は二つの電子状態でClass IIIに帰属できる初めての錯体である。
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