研究実績の概要 |
本研究課題は、自然エネルギーを用いた二酸化炭素還元に必要不可欠な技術として、電気・光化学的に再生可能なヒドリド供与体の創出を目標にしている。近年、本研究代表者等が開発したNAD型配位子を持つ金属錯体は、電気・光化学的2電子還元を受け、配位子がNADH型へ変化することが報告されている。当該年度はNADH型に還元された配位子に高いヒドリド供与能を賦与するために、①「ヒドリドとプロトンが協奏的に配位子から基質に移動する仕組み」、②「配位子上の電子密度を上昇させる仕組み」を持たせた新設計のNAD型配位子1,5-フェナントロリン(1,5-phen)を持つルテニウム錯体[Ru(bpy)2(1,5-phen)]PF6 ([1]PF6)を合成し、その化学的、光化学的還元を行った。 1,5-phenは3-アミノ-2-クロロピリジンと2-ホルミルベンゼンボロン酸を原料とした一段階の反応で合成に成功し、[1]PF6は二核ルテニウムベンゼン錯体に1,5-phenを作用させて[Ru(1,5-phen)(NCCH3)4]PF6を合成した後、2当量のbpyを作用させることで合成に成功した。[1]PF6を過剰量のLiBHEt3で処理することで目的とする1,5-phenがNADH型に還元された[Ru(bpy)2(1,5-phenH2)]PF6 (1,5-phenH2: 5,6-ジヒドロ-1,5-フェナントロリン, [1・H2]PF6)が生成することを1H NMR、ESI-MSにより確認し、アセトニトリル/ジエチルエーテル再沈殿により[1・H2]PF6を単離することに生成した。そして、[1]PF6は犠牲試薬としてトリエタノールアミン、光増感剤として[Ru(bpy)3](PF6)2を含むアセトニトリル溶液中で光化学的2電子還元を受け、[1・H2]PF6を生成することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では平成26年度はNADH型に還元された配位子に高いヒドリド供与能を賦与するための仕組みである、①「ヒドリドとプロトンが協奏的に配位子から基質に移動する仕組み」、②「配位子上の電子密度を上昇させる仕組み」のうち、①の仕組みのみを備えたNAD型配位子ピリド[2,3-c]-1,5-ナフチリジン(pnp)を用いて研究を展開する予定であったが、pnpの合成は成功しなかった。しかし、①、②両方の仕組みを備えたNAD型配位子1,5-phenの合成に成功し、1,5-phenを持つルテニウム錯体[1]PF6の光化学的2電子還元によるNADH型の錯体[1・H2]PF6の生成に成功している。
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