本研究では、第一遷移系列元素を中心金属として有する錯体を用いて小分子の多電子還元を達成することを目的に、低原子価多核金属錯体の合成と反応を検討した。平成27年度では、多核鉄錯体の合成と還元反応に注力し、新規に合成したお椀型配位子を用いることで、鉄一価または鉄0価を含む二核、三核、六核鉄錯体をそれぞれ合成した。X線構造解析の結果、得られた錯体はこれまでに報告例のない構造様式をとっていることがわかり、また高い反応性が期待された。 また平成26年度に合成した単核錯体の反応性を調査し、例えば鉄錯体を用いることでアゾベンゼンのオルト位C-H結合切断およびN=N二重結合切断が可能であることを明らかにした。 本研究課題を2年間遂行することによって得られた「マルチ銅酸化酵素のモデルとなる三核銅錯体を用いた酸素分子の活性化」、「三核コバルト錯体による二酸化炭素のギ酸イオンへの還元」、「単核および多核鉄錯体を用いたN-N多重結合切断」といった成果はこれまでに報告例がない、もしくはほとんどないものであり、第一遷移系列元素を用いた小分子活性化の分野において重要な知見となることが期待される。
|