本研究は、周辺媒体という外的な要因による遷移金属錯体の新たな光機能発現を目指して実施した。主たる対象とした球状イオン交換媒体を用いた系では、前年度までに二価の陽イオンであるルテニウム(II)ポリピリジン錯体が導入されていく挙動を観測し、また導入された錯体が高エネルギーかつ長寿命な発光を示すことを明らかにした。さらに、直径200 nm程度まで微小球化したイオン交換媒体中においても類似の発光挙動を示すこと、複数種の金属錯体を共担持することにより微小球内部で光誘起反応が発現することを見出してきた。最終年度は微小球内部における励起エネルギー移動反応の挙動を実験的に観測することを目指し、微小球媒体の合成および錯体担持の条件検討および種々の分光測定を実施した。その結果、微小球内部では最大96%の効率で励起エネルギー移動反応が起こっていることを明らかにした。同程度の物質量の金属錯体を添加した均一溶液ではほとんど反応が起こらないことから、微小球内部への金属割いたの濃縮が反応効率に強く影響したものと考えられる。さらにこの共担持試料に対して時間分解発光測定を実施したところ、エネルギー供与体の光励起100 ns後までに励起エネルギー移動反応がほぼ完結していることがわかった。更なる時間分解発光測定・解析の実施により、その詳細を解明できると考える。 また本研究では媒体の温度変化による遷移金属錯体の発光性制御にも取り組み、様々な温度範囲における発光性金属錯体の物性に関する知見を得ることができた。
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