研究課題/領域番号 |
26810045
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
生井 飛鳥 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40632435)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高周波透磁率 / 磁性ナノ微粒子 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ロジウム置換型イプシロン酸化鉄ナノ磁性体を初めとする金属置換型イプシロン酸化鉄を用いて、高いミリ波吸収性能を有するミリ波吸収体を作製することを目的としている。本年度は、従来の合成法でロジウム置換によりイプシロン型酸化鉄の保磁力を更に向上させた試料の合成を進めるとともに、金属化合物ナノ微粒子を出発原料とした合成法の検討も行い、イプシロン相を高い分率で得ることに成功しており、ロジウム置換による保磁力向上を観測した。更なるロジウム高置換化が可能になったと考えており、高置換体の合成を進めている。また、吸収性能の指標となる、ゼロ磁場下強磁性共鳴周波数の近傍の比誘電率および比透磁率を決定することは重要である。ペレット状に成型したイプシロン酸化鉄試料について、テラヘルツ時間領域分光法を用いて、50-2000 GHzの透過スペクトルを測定した。透過スペクトルにはゼロ磁場下強磁性共鳴による吸収ピークが観測されるとともに、ベースラインには試料厚みに依存した周波数周期のフリンジが観測された。透磁率はランダウ-リフシッツのスピン運動方程式に従うとし、吸収体厚みによる多重反射を考慮して、透過スペクトルのフィッティング解析を行ったところ、比誘電率および比透磁率を求めることができた。比透磁率は共鳴周波数を中心とする周波数分散を持ち、比透磁率虚部は共鳴周波数で最大値をとるが、その最大値はミリ波吸収体としては大きな値であり、高い吸収効率を有することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、ロジウム置換によりイプシロン酸化鉄の保磁力を更に向上させた試料の合成を進めた。これまでに、シリカマトリックス中でのロジウム置換型イプシロン酸化鉄ナノ微粒子形成時において、加熱温度やシリカマトリックス量を変化させることにより、結晶子成長を制御した合成を検討してきており、粒子サイズと相分率の関係から、粒子サイズ制御がイプシロン相発現において重要であることが分かってきている。これまでは金属イオンを出発として合成を行ってきたが、これまでの知見を活かして、本年度は金属化合物ナノ微粒子を出発原料とした合成を検討したところ、イプシロン相が主相として生成しており、ロジウム置換による保磁力向上を観測した。更なるロジウム高置換化が可能になったと考えており、高周波数化に向けて大きく前進したと考えられる。また、高いミリ波吸収性能を有する磁性材料の開発という観点から、イプシロン酸化鉄およびその種々の金属置換体について、ゼロ磁場下強磁性共鳴現象を観測した。異なる結晶子サイズを変えた試料について検討を行ったところ、例えばアルミニウムイオンで鉄イオンを25%置換した平均粒径が30 nmと20 nmの2種類の試料で、ゼロ磁場下強磁性共鳴現象による吸収スペクトルを測定したところ、100 GHzという共鳴周波数は変化していなかった一方で、大きい粒子サイズでは半値幅が狭くなり、吸収性能は2倍へと上がり、高い吸収性能を実現できることも分かったため、高性能吸収体を得る重要な知見が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に得られたロジウム置換型イプシロン酸化鉄を使って、高周波ゼロ磁場強磁性共鳴の観測を行うと共に、更にロジウム置換量を多くした試料の合成を進めることで、最高ゼロ磁場強磁性共鳴周波数の観測を狙う。また、平成27年度は、結晶方位がランダムの場合の、いわば平均化された透磁率を調べる方法を決定でき、ミリ波吸収磁性材料として大きい透磁率を有することが分かったが、結晶方向を揃えることで、結晶としての透磁率が分かるため、平成28年度はこれを検討する。ゼロ磁場強磁性共鳴現象で生じる、磁化の歳差運動の方向を粒子においてでも揃えることができるので、透磁率の向上も期待できる。結晶方向を揃えるに当たって必要となる粒子の分散液の調整についても方策が得られており、pH=11程度にpH制御を行ったうえで機械的に分散させることで、高い分散性を実現できることが平成27年度の研究により分かっているので、これに樹脂を添加して磁場中硬化させることにより結晶方向を揃える。これまでに合成してきたイプシロン酸化鉄およびその種々の金属置換体について、誘電率および透磁率の波長分散(周波数、線幅などのスペクトル形状)の比較検討を行い、上述のような結晶子サイズ、金属置換効果、結晶配向特性との相関を調べることで高性能ミリ波吸収体の作製を進める。透磁率の波長分散(線幅)を活かしたミリ波吸収体の開発を行い、積極的に材料開発・測定を進める。
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