平成28年度は金属置換した斜方晶ナノ酸化鉄において、バルク磁化歳差運動による磁気光学効果を調べた。約25%アルミニウムで置換した斜方晶ナノ酸化鉄をゾルゲル法で合成した。バルク磁化歳差運動の固有周波数を調べるため、透過吸収スペクトルを測定したところ、1.00×10^11ヘルツに、1mmあたり13デシベルの強度の共鳴吸収ピークが観測された。バルク磁化の方向を磁場印加により揃えた試料を作製し、直線偏光の電磁波を入射し、Wバンド帯の偏光特性を調べた。その結果、試料を透過した電磁波は、回転角17°で楕円率が0.7の楕円偏光となっていた。また、バルク磁化の方向を反転させると、回転角および楕円率の符号が反転することが観測され、この材料がバルク磁化歳差運動に起因する偏光素子としての性能を有することを明らかにできた。また、バルク磁化歳差運動の制御という観点から異方性磁界の向上を試みた。これまでに斜方晶ナノ酸化鉄における異方性磁界の向上は、ロジウム置換によってのみ実現できているが、ルテニウム置換によっても異方性磁界が増大することを明らかにすることができた。さらに、置換量当たりの増大効果はロジウムよりも大きいことが分かってきている。ルテニウム置換によって、斜方晶ナノ酸化鉄の磁性材料としては最高のバルク磁化歳差運動の固有周波数を、更に高くできることが期待される。本材料の磁性材料としての可能性を拡げることができたと考えている。
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