研究実績の概要 |
本研究では、動的ならせん構造が有する『キラル情報の長距離伝達能』の特徴を最大限に活用したキラル構造の遠隔制御システムの構築とその応用等を目指し、以下に示す成果を得た。 1. 安定ならせん構造を形成するアキラルペプチド鎖のC末端部位に光学活性基を導入した動的ならせんペプチド鎖を有する面性キラルなサレンマクロサイクルを合成し、導入した光学活性基によるアキラルペプチド鎖の一方向巻きの誘起を介した動的な面不斉の遠隔制御ならびにその固定化(記憶)について検討を行った。その結果、面性キラルなマクロサイクルが、対応する構成単位の自己組織化により高選択的に生成することを明らかにした。また、マクロサイクルから離れた位置に導入したキラル残基のキラル情報が、アキラルペプチド鎖の一方向巻きのらせん誘起を介して伝搬されることで、マクロサイクルの面不斉を遠隔制御することにも成功し、溶媒によりその面性キラリティの優先性が可逆的にスイッチング可能であることも見出した。さらに、極性の大きなフルオロアルコールを溶媒に用いたところ、マクロサイクルのらせんペプチド鎖部位が、約3残基で1回転の310-ヘリックス構造から、らせんの直径がより大きなα-ヘリックス構造へと転移し、その結果、pR/pS間の面不斉の反転を完全に抑制(記憶)することにも初めて成功した。 2. 動的に軸性キラルな2,2’-ビピリジン(bpy)の3,3’位に1.で用いた動的ならせんペプチド鎖を導入し、その軸不斉の遠隔制御に成功した。さらに、bpy部位のN,N’-ジオキシド化反応がジアステレオ選択的に進行することも明らかにするとともに、得られたジアステレオマーの分離にも成功した。 本研究で得られた成果は、キラル情報の伝達過程を理解するだけでなく、生体を模倣した遠隔制御システムの構築や新規な光学分割材料、不斉触媒の開発にもつながることが期待される。
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