研究課題/領域番号 |
26810048
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田浦 大輔 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20622450)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超分子 / 二重らせん |
研究実績の概要 |
『らせんがバネである』という概念を二重らせんヘリケートに導入することで、回転を伴う伸縮運動の制御が初めて達成された。しかし、この伸縮運動の制御には、化学反応を必要とし、実用的な機能性材料の開発という観点からは、物理的な外部刺激を駆動力として自在に伸縮可能な二重らせんヘリケートの開発が極めて重要である。本研究では、光や電場、酸化還元に応答して伸縮する二重らせんヘリケートの合成とその機能化、さらには、伸縮運動を巨視的な運動に変換可能なシステムの構築を目指す。 1. フェノールオリゴマー(6量体)の中央に位置する2つのフェノール部位を光応答性分子であるスチルベンに置き換え、光駆動型伸縮ヘリケートの合成を行った。ESI-MSおよび1H NMR測定より、1,2-ジクロロエタン/エタノール混合溶媒中、シス体の配位子を用いた場合のみ、目的の二重らせんヘリケートが得られることが分かった。また、このヘリケートは、クリプタンド221でNaイオンを取り出すことにより、ボロン間距離が6.6Åから9.4Åへと変化し、さらに、295 nmの光を照射することで、シス体からトランス体へと異性化し、13.2Åまで伸長することが明らかとなった。しかし、本系では、残存酸素によりスチルベン部位が酸化されるため、光による不可逆的な伸縮運動であることが分かった。 2. 蛍光を発する分子であるピレンは、分子同士が互いに近接するとエキシマー発光を示す特性がある。そこで、フェノールオリゴマー(6量体)の両末端にピレンを導入した二重らせんヘリケートを合成した。本系では、Naイオンの放出・補足過程において、ヘリケートが可逆的に伸縮運動するとともに、特定の溶媒中でモノマー発光とエキシマー発光を可逆的に制御可能であることを見出した。また、キラルHPLC測定より、右巻きと左巻きのらせんに光学分割できることも明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 当該年度の計画通り、光応答性分子としてシス体のスチルベンを導入した二重らせんヘリケートを合成することに成功した。また、Naイオンの放出・補足過程において、ヘリケートが可逆的に伸縮運動するとともに、紫外光を照射することで、トランス体へと構造変換することも明らかとなった。本研究成果は、学術論文(New Journal of Chemistry)への掲載が決定している。今後は、可逆的な伸縮運動の制御を目指すべく、アゾベンゼンを導入した二重らせんヘリケートの合成について検討する。 2. 当該年度の計画通り、フェノールオリゴマー(6量体)の両末端にピレンを導入した二重らせんヘリケートを合成するとともに、その光学分割に成功した。さらに、らせんのバネ運動を利用して、発光特性を可逆的に制御可能であることを見出した。本研究成果は、学術論文として投稿準備中である。 以上の結果から、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた結果をもとに、以下の研究を推進する。 1. 光による可逆的な伸縮運動の制御を目指すべく、光応答性分子としてアゾベンゼンを導入した二重らせんヘリケートの合成に取り組む。 2. ピレンを導入した二重らせんヘリケートを用いたカチオンセンサーや円偏光性発光(CPL)を利用した材料の開発に取り組む。 3. 伸縮運動を効率的に駆動する条件の探索とバルクで機能する材料の開発を目指し、多次元二重らせんヘリケートを合成する。また、伸縮運動に伴うフィルムやゲルの巨視的な変化の制御をも目指して、以下の研究を推進する。①伸縮ヘリケートの高分子化:高分子量化を実現するために、フェノールオリゴマー(6量体)の中央にスチルベンやアゾベンゼンを、末端にピリジンやターピリジンを導入したヘリケートを合成し、銀イオンや白金イオン等との金属配位による一次元・二次元ネットワークの形成を試みる。②オリゴヘリケートの伸縮運動を利用した分子リフトの設計:らせんがバネであることを最大限に利用するために、フェノールオリゴマー(n量体)からなるヘリケートをITOやガラス、金基板上に固定化する。まず、化学結合や物理吸着により、基板上に固定化・接着させる。その結果、光照射による分子レベルでの伸縮運動を巨視的なスケールで観察可能な系が構築できると考えられる。評価は、主に原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、マイカ上に固定化したヘリケートの微かな高さの変化を直接観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析機器等の設備・備品類の多くは既に揃っており、光応答性分子や蛍光性分子としてスチルベンやピレンを導入した二重らせんヘリケートの合成およびそれらの構造変化や発光特性を評価する上では、必要最低限の経費で円滑に本研究を遂行することができた。また、平成26年度は、これらの現象の本質を見極め、小スケールでの詳細な条件検討等を重点的に行ったことから、インテリジェントオートサンプラの購入を見送るとともに、当該助成金を次年度へ繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に実施する予定の研究計画では、フェノールオリゴマー(6量体)の両末端にピレンを導入した二重らせんヘリケートを含む種々のヘリケートを光学分割し、それらを効率的に分取・精製する必要がある。そこで、平成27年度は、光学分割カラム(数本)およびインテリジェントオートサンプラを購入する予定である。また、種々の二重らせんヘリケートを合成する上で必要不可欠の高価な金属触媒や重溶媒を含む様々な試薬、さらに、蛍光測定用の四面透過型石英セルや円二色性測定用の石英セルを含むガラス器具や理化学機器等が必要であり、これらの購入に必要な経費を消耗品にあてる。
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