研究課題/領域番号 |
26810054
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平 敏彰 独立行政法人産業技術総合研究所, 化学プロセス研究部門, 研究員 (40711974)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 水系触媒 / 界面活性剤 / NHC配位子 / パラジウム / クロスカップリング反応 / Heck反応 / コロイド / 界面 |
研究実績の概要 |
界面活性剤と金属触媒が一体化したメタロサーファクタントは、水中で基質と触媒活性点が自発的に近接する特異な化学反応場「メタロミセル」を与える。本研究では、界面活性剤型N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)配位子を新たに設計し、これが水中でパラジウムと錯形成することにより得られるメタロサーファクタントを活用した水中触媒反応の開発を行った。 まず、本年度はイミダゾールを原料に、親水基と疎水基を段階的に導入することにより親水/疎水バランスの異なる4種類のNHC配位子を合成した。また、合成したNHC配位子と酢酸パラジウムを水中で反応させることにより、メタロサーファクタントを複数の異性体の混合物として得た。 続いて、NHC配位子とメタロサーファクタントの界面活性能を表面張力測定(ウィルヘルミー法)により評価した。その結果、NHC配位子及びメタロサーファクタントは、水の表面張力を低下させ、これらが水中で界面活性剤として機能することが分かった。また動的光散乱測定より、メタロサーファクタントは水中でメタロミセルを形成することを明らかにした。 さらに、メタロサーファクタントを水中での溝呂木-Heck反応に適用した。すなわち、水中において、NHC配位子と、油状基質であるハロゲン化アリールとオレフィンを加え撹拌したところ、油状基質が水に分散安定化した乳化物が得られた。ここにトリエチルアミン、酢酸パラジウムを加え、70 oCで24時間反応させたところ、クロスカップリング体が定量的に得られた。同様の反応を、市販の界面活性剤と一般的な金属触媒を別々に混合した系で行うと、その転化率は中程度に留まったことから、金属触媒と界面活性剤の一体化により水系溝呂木-Heck反応の効率が大幅に向上することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度では、1)界面活性剤型NHC配位子及びメタロサーファクタントの合成、2) 界面活性剤型NHC配位子及びメタロサーファクタントの界面物性評価、3) 当初の目標であったメタロサーファクタントを活用した水中クロスカップリング反応を達成した。項目1)は本研究の重要な基盤項目であり、親水/疎水バランスの異なるNHC配位子の合成を重点的に検討した。その結果、安価な原料から短工程(2から4工程)で4種類の界面活性剤型NHC配位子を合成することに成功した。これによって、項目2)-3)の研究成果を順調に遂行することができた。一方、メタロミセル内部の微視的極性と基質の空間配置は未だ明らかではなく、次年度では、これらの研究データを蓄積し、これを反応機構の考察や、触媒の回収・再利用技術の確立へと発展させる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、界面活性剤型NHC配位子を新たに設計・合成し、これが水中でパラジウムと錯形成することにより得られるメタロサーファクタントを活用した水中溝呂木-Heck反応を開発した。一方で、メタロミセル内部の微視的極性と基質の空間配置等の詳細な反応メカニズムについてはまだ明らかになっていない。これらの界面物性と触媒活性の相関関係を解明することが出来れば、当該分野のブレークスルーとなる発見にもつながるため意義深い。そこで今後は、高分解能TEMを用いたメタロミセルの形状観察やNMRによる緩和時間測定、速度論的解析を駆使することにより、メタロミセル内部がどのような化学環境にあるのか、基質はどのように配向しているのか、基質と金属の近接場効果などを体系的に評価する。また、触媒の回収・再利用技術の確立についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の消耗品購入の予算として使うため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究費は、主として有機溶媒や遷移金属塩、基質等の試薬類の購入に使用する予定である。また、研究成果の発表を行うための学会参加費および旅費についても予算を計上する。
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