水を媒体として用いる触媒反応は、低環境負荷で安全性の点で優れた化学プロセスである。本研究課題では、金属触媒と界面活性剤が一体化したメタロサーファクタントを設計し、水中で金属触媒が集積したミセルやエマルションなど、コロイド状の反応場を構築することにより、高効率な水中触媒反応を開発することを目的とした。金属触媒の拡張・量産化が可能で、かつ水中で高い触媒活性を示す配位子としてN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)に注目し、このものの親水/疎水バランスやパラジウムとの反応を制御することにより界面活性剤との一体化を試みた。平成27年度は、前年度に合成した界面活性剤型NHC配位子とともに、アミン系単座配位子を用いて異性化や分解等を制御することにより、水中においても構造が安定化されたNHC-パラジウム触媒(メタロサーファクタント)を合成することに成功した。 合成したメタロサーファクタントが水中で形成する反応場内部の化学環境を評価した。表面張力測定や動的光散乱測定の解析によって、界面活性剤型NHC配位子とパラジウムが錯形成することにより反応場の自発的な形成が促進されることを明らかにした。平成27年度は、核磁気共鳴スペクトル測定によって、その内部空間には種々の油溶性基質が可溶化されることを明らかにし、最大可溶化量や可溶化位置に関する知見と合わせて、水系触媒反応に最適な条件を見出した。 メタロサーファクタントが形成する反応場を用いた水系触媒反応の開発を行った。最適な基質量と組成、温度で設定した反応場を用いた溝呂木-Heck反応や鈴木-宮浦カップリング反応などを検討した結果、高い触媒活性を示すことを見出した。ベンチマーク反応として溝呂木-Heck反応をより詳細に検討した結果、一連の水系触媒反応においては、反応場の界面に触媒となるパラジウムが配置されることが重要であることを明らかにした。
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