研究課題
過去に,船底防汚剤に用いられた有機スズ化合物は,海洋環境の汚染問題を引き起こし,環境低負荷型の新規防汚剤の開発は急務の課題である.代表者は,船底に付着する貝類が嫌う海洋天然物を合成することで,海洋環境に優しい防汚剤が開発できると考えた.ムラサキガイの足糸形成を阻害する活性をもつ,ドラスタンジテルペンを標的として全合成研究を展開した.昨年度までで,ハンチュエステルを用いた還元的クネベナーゲル縮合,コーリー・バクシ・柴田還元の変法を鍵工程とし,目的とするラジカル環化反応の前駆体を合成した.その前駆体をヨウ化サマリウムで処理した結果,当初の計画通り七員環が形成され,ビシクロ [5.4.0] ウンデカン骨格を構築することに成功した.がしかし,二次元 NMR による解析や有機合成変換による検討により,目的の天然物と同じトランス型骨格ではなく,シス骨格が立体選択的に構築していることが,計画に反して明らかとなった.従って天然物のトランス型骨格を再構築し,同時に六員環状のエキソオレフィン部を一挙に構築する新規経路を考案した.まず七員環上のエキソオレフィン部位をオゾン酸化でケトンにした後,塩化セリウムおよびヨウ化ナトリウムによる処理により脱離体を効率的に得た.合成した脱離体を足掛かりに,エポキシドへと変換後,活性亜鉛の処理でトランス骨格とエキソオレフィンを同時に構築する経路を検討中である.本研究から得られた知見は,今後,ターゲット化合物の構造活性相関およびケミカルバイオロジー研究に展開する足掛かりとなるものと考える.また上記骨格合成法を応用することで,糖尿病腎症の有用なリード化合物として期待されるセスキテルペノイド,トキシコデナン A の全合成研究も同時に実施した.結果,トキシコデナン A のシス型ビシクロ [5.4.0] ウンデカン骨格を効率的に合成でき,上記合成戦略の汎用性が示された.
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