研究課題/領域番号 |
26810062
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
佐々木 要 東邦大学, 理学部, 講師 (10611783)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ペプチド合成 / チオカルボン酸 / グリーンケミストリー |
研究実績の概要 |
アミド結合形成は形式上,カルボン酸とアミンの脱水反応である.しかし,特にペプチド結合は,カルボン酸とアミン,そして,等量以上の縮合剤と添加剤を用いた合成が主流であり,共生成物co-productが廃棄物となっている.この原子効率が低いという問題は遍く共有されており,アミド結合形成の新反応開発は注目度の高い研究分野である.代表者らもこれまでに,高原子効率のアミド結合形成反応としてチオカルボン酸やカルボン酸とイソシアナートから脱炭酸あるいは脱酸化硫化炭素のみを伴うアミド化反応を報告してきた.この,チオカルボン酸を活用した反応開発を行ってきた実績に基づき,本研究課題では高原子効率のオリゴペプチド合成法へと展開し,副生成物として二酸化炭素のみを与える新反応を開発した.特にこれまで,N-からC-末端に向けてオリゴペプチドを合成すると,C-末端残基のラセミ化が問題となるため,C-からN-末端に向けて一残基ずつ伸長する合成が強いられてきた.その結果,従来のペプチド合成は,アミノ酸モノマーのアミノ基に高価な保護基を用いる必要があり,原子効率のみならず,経済的にも改善点の多い合成法となっている.そこで本研究課題では,ラセミ化を伴わずにN-からC-末端へのオリゴペプチド合成を可能にする,高原子効率の手法を開発するため,アミノ酸モノマーとして,それ自体で,アミノ基が保護され,かつ,カルボン酸が活性化された構造を用いた.初年度の成果として,本研究課題の基本コンセプトである,チオカルボン酸とこのアミノ酸モノマーから脱炭酸のみを伴いアミノ酸一残基伸長が可能であることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来法で合成原料として用いられている,高価な保護基で保護されたアミノ酸モノマーに代えて,安価なアミノ酸から簡便に調整可能なアミノ酸モノマーとチオカルボン酸を用いたペプチド合成法を検討した.このモノマーはそれ自体でカルボン酸が活性化されており,かつアミノ基が保護された構造をしているため,縮合剤や保護基を用いることなく,二酸化炭素のみを共生成物としたペプチド合成が可能になると期待できるため,非常にグリーンな反応である.実際に,求核剤となるチオカルボン酸として入手容易なチオ酢酸を用いてバリン1残基を伸長する反応を指標として反応条件の最適化を行った.広範なプロトン酸性添加剤の有無,求核開環反応促進剤としての種々のチオール添加剤の有無,有機および無機塩基の有無,反応溶媒などを詳細に検討した結果,反応溶媒兼塩基としてピリジンを用いた際に,反応は最も効果的に進行し,常温下で望む1残基伸長反応が確認された.そしてさらに,次の伸長反応の足掛かりとなるチオカルボン酸が復元することを見出した.チオカルボン酸はO-acidとS-acidの2種の互変異性体を含む場合が多く構造決定が煩雑なので,チオエステルに誘導することでチオカルボン酸の生成を確認した.このことより,本研究課題のコンセプトが機能することが示された.今回用いたアミノ酸モノマーは,これまで古典的ホモポリアミド合成に用いられてきたことから,望まないオリゴマーの生成が危惧されたが,当初計画していた弱酸性下での反応よりも塩基性条件でオリゴマー化の抑制が可能であり,最終的には定量的に望む一残基伸長が可能であることを見出した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の計画通り,チオカルボン酸を足掛かりとしたペプチド一残基伸長と次のペプチド伸長の足掛かりとなるチオカルボン酸の復元が可能であることが示されたが,新たに本反応がチオカルボン酸の立体的かさ高さに敏感であり,オリゴペプチドチオカルボン酸を足掛かりとした一残基伸長は予想よりも遅いことが明らかとなった.そのため,バックアップ戦略のとおり,セレノカルボン酸を用いることで求核力の増強を試みる.チオカルボン酸に変えてセレノカルボン酸を求核剤に用いれば,アミノ基との求核力やpKaの差はさらに大きくなり,ホモオリゴマー化の回避に有利に寄与すると考えられる.また,求電子剤となるアミノ酸モノマーの反応性を上げるため,モノマーの求電子性を上げたり環ひずみを増す試みを行う.現在のところ,当初予想した望まないS→Sアシル転位は観測されておらず,計画は順調に進行しているが,今後,S→Sアシル転位の有無を精査し,必要があれば固相合成法への展開も検討する.初期検討ではまず,H-Rinkアミド樹脂にモノチオグルタル酸を縮合した固相担持チオカルボン酸を用いてオリゴペプチドチオエステルを合成し,S→Sアシル転位が抑制でき,純度の高いオリゴマーが得られることを確認する.従来の固相ペプチド合成では,トリフルオロ酢酸で脱保護できるBoc基とピペリジンで脱保護できるFmoc基の2種の直交する保護基が,一方は主鎖のα-アミン,他方は側鎖官能基の保護に用いられる.そのため, Boc基,Fmoc基のいずれを主鎖伸長に用いたとしても,必ず一度はペプチドが酸に曝されることになる.本法により,この現行法の打開を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の使用額は,今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である.特に,使用予定であった有機合成用溶媒については,大学からの教室運営費によりまかなうことができた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度請求額と合わせ,平成27年度の研究遂行に使用する予定である.特に,有機合成用ガラス器具を用いた実験頻度が高くなる予定であるため,その購入に充てる.
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