本研究では2次元運動性を有する構造明確なラダーポリマー「zig-zagポリマー」の合成と物性探索を目的として研究を行ってきた。平成27年度では、研究当初予定していた合成手法とは異なる、トレガー塩基の分解反応を鍵とするラダーポリマーを得る画期的な合成ルート新手法を見出すに至った。平成28年度では、得られたラダーポリマーの一次構造の完全決定を行った。ラダーポリマーの繰り返し単位に対応する種々の低分子化合物を合成し、種々の多次元核磁気共鳴(NMR)測定による1H NMRスペクトルの完全帰属を行い、ラダーポリマーの1H NMRスペクトルと比較することで、幾つかのラダーポリマーの構造を決定した。またサイズ排除クロマトグラム多角度光散乱(SEC-MALS)により、各修飾段階での分量低下が無い、すなわち、各反応は非常に効率的に進行し、高分子主鎖を切断するような副反応は起こっていないことが示唆された。幾つかの追加実験は必要であるが、本成果をまとめた学術論文を執筆中である。当初の予定よりも研究は遅れてしまったものの、研究の過程で当初の計画よりも効率的な合成手法を見出すことができ、最終的にはより優れた手法の開発につながったと言える。 また上記検討の過程で、その合成中間体である4級アンモニウム塩構造を有するミクロ多孔性ラダーポリマーは、高いアニオン伝導性を持つことを見出した。現在全固体アルカリ燃料電池の実現のため、高いアニオン伝導性を持つ高分子膜の需要が急速に高まっている。そこで平成28年度では前述の知見に基づいた、新たなアニオン交換膜を開発することにした。具体的には、スイロビスインダン骨格を持つラダーポリマーに4級アンモニウム塩構造を導入した誘導体を合成しその膜が比較的高い水酸化物イオン伝導度と、高い燃料バリア性を示すことを見出し、その結果を学術論文に投稿し受理された。
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