研究実績の概要 |
細胞分泌成分のフィンガープリンティングにもとづく幹細胞評価法を実現するために、交差反応性の酵素/高分子電解質複合体ライブラリの開発を試みた。初めに、ポリエチレングリコール/カチオン性高分子電解質のブロック共重合体に対し疎水性の異なる官能基を導入し、これらをアニオン性酵素と複合体化したライブラリを作製した。このライブラリを用いることで、由来の異なるアルブミンホモログに特徴的な酵素活性変化量のフィンガープリントが得られ、統計解析により96%の精度で識別が可能であることを示した(Analyst, 2014)。この方法をもとにしたライブラリにより、細胞の培養後に回収した培養液を分析したところ、種類の異なるヒトがん細胞の識別だけでなく、ヒト間葉系幹細胞の未分化・骨芽分化・脂肪分化の識別が可能であることが分かった(Chem. Sci., 2015)。さらに、本ライブラリは、由来の異なる哺乳類の血清の識別にも応用可能であることも見出した(Anal. Sci., 2016)。より微少な細胞状態の差異の識別を目指し、酵素に対して多様な性質の酸無水物を修飾して、分析のその場で簡易にライブラリを作製する方法を検討したところ、タンパク質だけでなく、哺乳類血清や細胞の識別も可能なことが分かり、本アプローチを利用することで幹細胞品質評価のさらなる応用範囲の拡大が示唆された(論文投稿準備中)。また、本研究を通じて得られた、酵素と高分子の相互作用に関する知見を総説としてまとめた(Curr. Med. Chem., 2016, Curr. Pharm. Biotechnol., 2016)。
|