研究実績の概要 |
本研究では、複数の高分子試料の測定結果から、分子構造(官能基の種類)とクラスターイオンの照射条件(Eatom、クラスターの大きさ等)により解離パターンおよび結合解離の閾値が変化することを見いだした。また、データ取得システムを作成し、短時間で大量のスペクトルデータを取得できるようにした。その結果、より多くのデータを解析することができるようになり、解析時の統計的な誤差を小さくできるようにした。このように構築してきた実験システムで、スペクトルのEatom依存性に、分子構造以外の情報が含まれていることが示唆されている。本年度は、前年度までに測定した種々のSIMSデータおよびポリビニルピロリドン(PVP, (C6H9NO)n)試料のEatom依存SIMSスペクトルをこれまでよりデータ数を増やし主成分分析(PCA)により解析した。その結果、主成分1では、多数ある二次イオンピークを化学結合の解離部位の違いによる成分に明確に分類できることがわかった。さらに、主成分2(PC2)にもまだ15~40%の情報量が残っていることがわかった。これはこれまでの研究から、深さ方向の分布や、表面の硬さなどの情報を反映していると考えられる。この結果から、一次イオン照射による試料分子の分解を抑制するのではなく、むしろEatomを調整することで能動的に制御すれば、試料表面・界面の分子構造情報と化学構造の深さ方向分布という、材料開発に必須の情報を、短時間で同時に同時に得られることが示唆される。
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