研究実績の概要 |
イオン液体は,常温でも液体の塩であり,陽イオンと陰イオンの組み合わせによって,溶媒物性を調節できる機能性媒体である。イオン液体を溶媒抽出の媒体として用いた場合は,荷電錯体のイオン交換抽出も起こるため,有機溶媒系よりも高い抽出能・分離能が期待できる。本研究は,発光性環状配位子を用いた有害金属イオンの高効率抽出分離系を構築し,金属錯体の分光特性を解明することを主な目的としている。本年度は,1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Cnmim][Tf2N])を用いて,発光性環状配位子による有害金属の抽出,ランタノイド(III)錯体の分光,β-ジケトンと疎水性中性配位子によるランタノイド(III)の抽出を研究した。
1. 合成した発光性環状配位子を用いて,カドミウム(II),水銀(II),鉛(II)の抽出を行った。抽出特性は金属イオンによって変化し,共存塩の種類にも大きく依存することを明らかにした。さらに,1,2-ジクロロエタンを用いた場合よりも配位子の抽出能が向上し,カドミウム(II)や鉛(II)では,発光性環状配位子の部分骨格を持つ配位子を混合した場合よりも抽出性が向上したことから,新規配位子の優位性が示された。 2. 時間分解レーザー励起蛍光分光法によりβ-ジケトン-ランタノイド(III)錯体の配位環境を検討した。過塩素酸イオンから構成されるイオン液体中では水和錯体が観測されるが,[Cnmim][Tf2N]中では溶媒和錯体が形成され,イオン液体陰イオンによって配位環境が変化することを明らかにした。 3.β-ジケトンとトリオクチルホスフィンオキシドを用いたランタノイド(III)の抽出において,種々のランタノイド(III)錯体の抽出定数と生成定数を算出し,疎水性の高い荷電三元錯体の形成が重希土選択的な協同効果発現の要因であることを明らかにした。
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