研究課題
本研究では、分子動力学計算により算出する変形能を用いた合理的分子設計方を確立し、従来の修飾核酸よりも親和性を向上させた人工核酸の開発を目指している。そのために、平成26年度において、多様な修飾基を導入した二重鎖の変形能を計算し、実験値との一致を確認した。またその際に、特定の位置に非共有電子対が存在すると、二重鎖の安定性が大幅に低下する傾向がみられた。実際に、そのような修飾を導入した場合、二重鎖の安定性が低下することも確認した。また非環状修飾では、これまで開発した修飾基は高い二重鎖安定性をしめすと予測され、大幅な向上は困難であることが示唆された。そこで、平成27年度では二重鎖の安定性を損なわず、かつ酵素耐性を示す修飾の開発を試みたところ、予期した通り、新たに開発した修飾核酸は二重鎖の安定性を損なうことなく、酵素耐性を大幅に向上させることができた。また同時に、糖部固定修飾核酸への変形能解析の適用可能性を評価した。5種類の糖部固定核酸を用いて評価したところ、4種類に関しては実験値との良い一致がみられた。その一方で一致が見られなかった糖部固定核酸はリン酸骨格への影響が正確に見積もれていない可能性が示唆された。これまでの研究成果をもとに、核酸塩基部修飾の評価に用いるなど周辺分野での実用性の検証も行った。さらに、研究で設計した糖部修飾核酸を合成する上で重要な中間体を、マイクロフロー反応系をもちいることで効率的に合成する手法の確立した。このように本研究の推進により、着実に研究成果を蓄積してきている。これまで得られた成果を踏まえ、平成28年度では新たな糖部固定核酸の開発を行い、本研究の目的である高活性な新規修飾を有する人工核酸の開発を達成する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度では、予定通り糖部固定核酸の評価を行った。実験値の報告されているBNA、ENA、PrNA、BNA(COC)およびEoNAの変形能解析を行ったところ、LNA/BNAはENAと同程度の安定性であり、ついでBNA(COC)、つづいてPrNAとなりDNAと同程度の安定性であると予想され、過去の実験値と良い一致がみられた。その一方でEoNAに関しては、実験値ではBNA(COC)と同程度であると報告されているのに対し、計算値ではDNAよりもやや不安定という結果が得られた。これはリン酸のアニオンとC4'に結合したエチレンオキシ基の静電反発もしくはリン酸骨格におけるγの角度へのゴーシュ効果の見積もりが正確に行われていなかった可能性が考えられる。このことから、リン酸骨格に影響する修飾基に対する影響の評価には注意する必要があることがわかった。これらの結果をもとに設計した分子を平成28年度では合成を行う。また非環状の2’修飾においては、昨年度までの検討により大幅な向上は困難であると予測されたため、かさ高い置換基を導入し、二重鎖の安定性を維持しながら酵素に対する抵抗性を確保できる分子の開発を行った。つづいて設計した分子の合成を行った。オキシマイケル付加反応を鍵とし、エステル部位をアミドに変換することで、さらなる官能基の導入を容易に行える、合成経路を確立することに成功した。この方法をもちいて合成した分子の物理的な性質を評価した結果、二重鎖の安定性は予測した通り、MCE核酸と同程度の安定性を示し、さらに従来の修飾基よりも20倍以上半減期の長い修飾基の開発ができた。現在、新規に開発した修飾基は筋ジストロフィー症の効果を測定するためのオリゴヌクレオチドを合成しているところである。
平成28年度では設計した糖部固定核酸の合成を行う。糖部の固定化を行うために、キシロースをもちいて糖部からの構築を行っている。まず、Jesper Wengelらが報告している類似した化合物の合成を行い、つづいて新規修飾の合成を行う予定である。現在のところ、水酸基のイソプロピリデンによる保護、一級水酸基選択的な保護基の導入および二級水酸基のAZADOによる酸化まで行い重要中間体を合成している。合成報告のある糖部固定核酸の工程数は19工程と長く、複数箇所の導入には大量合成が可能になる必要がある。よってまず、一箇所に修飾を導入し、その効果を評価する予定である。また、リボチミジンから誘導する新たな合成経路を探索し、大量に合成可能な方法も検討する予定である。平成27年度ではマイクロフローを用いた効率的な中間体合成法を確立しており、本合成においても効率化は可能であると考えている。また平成27年度までに開発した非環状の新規2’修飾基については、筋ジストロフィー症治療に有効な配列に導入をし、従来法と比較して、薬効の向上が見られるか評価する予定である。その検討を進めるのに必要な対応するホスホロアミダイトユニットの合成も進めていきたい。
2’修飾核酸の合成において、合成の終盤で多様な修飾基への変換を行うことができる合成経路を確立したため、当初予期していた経費よりも若干予算的に余裕が生じた。
2’修飾核酸とは異なり、糖部固定核酸の合成において合成工程数が長くなっており、詳細な検討が必要なため、引き続き有機合成費用として計上している。
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Chemical Communications
巻: 52 ページ: 3809-3812
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Synlett
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