研究実績の概要 |
DNAを薬剤や材料として活用する際、DNAは細胞内やチップ基板上の“超クラウディング環境”やイオン液体中の“超高塩濃度環境”などの“極限環境”下におかれ、DNAの構造や安定性は溶液環境の影響を大きく受ける。本年度は、極限環境が核酸に及ぼす影響を分子レベルで“知る研究”および得られた知見を基に機能性DNAを開発する”使う研究”を遂行した。 まず、Hoogsteen(H)塩基対から成るDNA構造体は、細胞内で転写などの生体反応を制御する。今年度は、超クラウディング環境がH塩基対から成るDNA四重鎖構造に及ぼす影響を解析した。その結果、ポリエチレングリコールによって誘起された超クラウディング環境下におけるDNA四重鎖の安定性は、1価カチオン共存下では安定化するが、鉛など2価カチオン共存下では不安定化することが示された(Nucleic Acids Res., 43, 10114, 2015, Biochimie, 121, 204, 2016など)。さらに、リン酸二水素型の水和イオン液体による超高塩濃度環境下では、コリンーH塩基対の相互作用によって、標準水溶液中では形成されないほど不安定なi-motif四重鎖構造が、安定に形成されることが明らかになった(Chem. Commun., 51, 6909, 2015、2015年4月8日の日刊工業新聞掲載)。 このようなコリンーH塩基対の相互作用を活用して、イオン液体中で標的遺伝子共存下において、DNA構造が変化するDNAナノスイッチを構築した。このDNAナノスイッチ用いて標的遺伝子をセンシングした結果、遺伝子の変異を従来法の10000倍の感度で検出できることが分かった(Analyst., 140, 4393, 2015、2015年6月24日の日刊工業新聞掲載)。
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