研究実績の概要 |
DNAの特異的な塩基認識能や環境応答性を活用して、薬剤、センサー、分子スイッチ等のDNA材料を構築する試みが加速している。DNAを材料として活用する際、DNAは細胞内やチップ基板上の“超クラウディング環境”やイオン液体中の“超高塩濃度環境”などの“極限環境”下におかれ、DNAの構造や安定性は溶液環境の影響を大きく受ける。本研究では、極限環境がDNAに及ぼす影響を分子レベルで“知る研究”を行い、得られた知見から機能性DNAを設計、開発することを試みた(使う研究)。 まず、分子クラウディング環境下におけるDNA1本鎖及び二重鎖の構造安定性を解析し、水和構造の重要性を明らかにした(Chem. Phys. Lett., 2016)。さらにDNA四重鎖構造とタンパク質の相互作用を熱力学的解析およびX線結晶解析を用いて解析した(Nucleic Acids Res., 2017)。また、極限環境下におけるDNAと溶質や溶媒の相互作用に注目し、DNAの塩基認識能を制御した最近の研究成果を基に、DNA材料開発における分子設計と今後の展望を総説としてまとめた(ChemBioChem., 17, 1301, 2016)。 本研究により得られた極限環境とDNAの相互作用を基に、DNA構造を安定化させ、生体適合性が高いと予測されるテトラエチレングリコール(TEG)をチミン塩基に共有結合で連結させた人工塩基(TEG修飾塩基)を開発した。その結果、TEG修飾塩基をもつオリゴヌクレオチドは、天然のオリゴヌクレオチドにより四重鎖構造を大きく安定化させた。さらに、TEG修飾塩基をもちいるとHIV-1の逆転写反応を70%以上の効率で抑制できることがわかった(ChemBioChem., 17, 1399, 2016,表紙に取り上げられた、2016年8月17日日刊工業新聞、9月17日神戸新聞に掲載)。
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