研究課題
本研究では、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)、及び、長鎖ノンコーディングRNAに着目することで、化学物質等のヒトへの直接的影響評価を可能とする、次世代環境センシングシステムの開発を目的として研究を進めた。ヒトiPS細胞は、多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経ても維持が可能な自己複製能を有する細胞であり、元の細胞の性質・機能を維持しているという利点を有する。また、長鎖ノンコーディングRNAはタンパク質に翻訳されないRNAであり、細胞のストレス応答においてダイナミックな制御機構を担うことが近年報告され始めている。昨年度までに、ヒトiPS細胞がモデル環境ストレス(過酸化水素等)の暴露を受けた際に、細胞内で長鎖ノンコーディングRNAの分解が抑制され、その存在量が増加した後で細胞死を起こすことを見出した。そこで我々は、ヒトiPS細胞に化学物質に応答して発現量が著しく増加した長鎖ノンコーディングRNAを人工的に過剰発現させ、環境ストレスに対して迅速かつ高感度に応答する機能性ヒト細胞を試みたが、未分化状態を維持したまま発現ベクターを導入することは困難を極めた。そこで打開策として、発現ベクターの導入が容易なヒト胎児腎細胞(HEK293)を用いて実験を行った。その結果、3つの長鎖ノンコーディングRNA(GAS5、IDI2-AS1、SNHG15)の発現ベクターをHEK293細胞に導入した場合、通常よりもそれぞれ数十倍に発現量が増加し、さらに、発現量が増加した細胞では、通常の細胞に比べて、生細胞数が著しく減少していることがわかった。以上より、長鎖ノンコーディングRNAを細胞内で人工的に増加させることで、環境ストレスに対して細胞死を起こしやすい機能性細胞を作製して、世界で初めて環境ストレス評価用の機能性ヒト細胞の開発に成功した。
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