研究課題/領域番号 |
26810102
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
須川 晃資 日本大学, 理工学部, 助教 (40580204)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | プラズモニクス / 光/電気エネルギー変換 / 光アンテナ / ポルフィリン / 光電流 / パラジウムナノ粒子 / 屈折率センシング |
研究実績の概要 |
まず,一つ目の目的として,銅ナノ構造/有機色素分子複合体による高性能光電変換素子の作製に着手した.構造は強光電場の発現と,表面プラズモン共鳴の発現波長の制御性能を兼ね備えたものが最適である.本検討ではシリカ微粒子の二次元コロイド結晶を鋳型とし,これに銅を蒸着した規則性銅ナノ構造体を採用した.当該構造体はITO電極上に構築し,銅蒸着膜厚をシリカ微粒子径の約半分程度とすることで,導電性が担保出来ることを確認した.次に,この電極基板の酸化を抑制するために酸化抑制層の被覆を検討した.電極性能を損なわないために,抑制層は超薄膜である必要がある.メルカプトヘキサデカン酸からなる自己集合単分子膜と,表面ゾルゲル法によって作製されたポリビニルアルコール(PVA)/酸化チタン(Ti(O))複合超薄膜の組み合わせによって,大気中においても銅表面の酸化反応を劇的に抑制可能となることを見出した.次に,PVA/Ti(O)複合膜上に固定されたポルフィリン分子の光電流を,3極式セルを用いて測定を行ったところ,銅の表面プラズモン共鳴の発現効率が高い長波長域(600 nm以上)において,約20倍もの大きな光電流の増強現象を見出した.以上の結果は,銅の表面プラズモン共鳴が光アンテナ能として十分に機能可能であることを示している. また,比較のために,可視域における虚部の誘電率が銅と同等レベル以上のパラジウムを素材としたナノ粒子を合成した.ナノ粒子のサイズを制御することで近紫外域において明確な表面プラズモン共鳴を発現することを見出した.更に,この表面プラズモン共鳴の発現条件の屈折率変化に対する応答性は高く,汎用なプラズモニック金属種である金・銀ナノ粒子をも大きく凌駕するものであった.この現象は準静電近似理論からもほぼ定量的に説明することが可能であり,新たなプラズモニックセンサー材料として有用であることを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では2つの目的を設定し,本年度ではそのためのコアとなる強光電場の発現を可能とする銅ナノ構造体の作製に注力する予定であった.シリカ微粒子の二次元コロイド結晶を鋳型とすることで,プラズモン波長の制御性能と強光電場の発現を兼ね備えた,望みの構造体を得た.更に,銅の蒸着膜厚を厚くすることによって,導電性も担保可能であることを見出し,プラズモニック銅ナノ構造電極として機能しうることを確認した.以上の進捗度から,概ね申請計画通りに進展していると考えた. また,更に,光電変換素子への活用を見据えて構造体の表面酸化の抑制を図った.結果,アルキルチオール分子の自己集合単分子膜と表面ゾルゲル法によって作製されたポリビニルアルコール/酸化チタン超薄膜で構造体表面を被覆することによって,表面酸化が劇的に抑制可能であることを見出した.この超薄膜上に集光分子としてポルフィリン分子単分子膜を固定したところ,ポルフィリン分子の光電流が銅の表面プラズモン共鳴によって大きく増強されることを見出した.以上の結果は,安価な銅種から成るナノ構造によってプラズモニックな光アンテナ効果が得られたことを示している.本申請の一つ目の目的を達成することが出来た.
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今後の研究の推進方策 |
まず,実験的に見出されたポルフィリン分子の光電流増強が銅ナノ構造体のプラズモン発現に伴う集光アンテナ効果であることを理論的に検証する.具体的には,今年度購入した有限差分時間領域法による計算を行い,構造体上で発現するプラズモンの光電場特性を解析する.光電流増強が誘起された波長域での光電場強度を算出することによって,増強がプラズモンの光電場に起因するものであることの妥当性を担保する.更に,申請の二つ目の目的である,銅ナノ構造体表面上に,p型半導体である酸化銅(Ⅰ)を生成させ,この半導体薄膜を光触媒材料として活用した水素発生系の構築を行う.特にプラズモン発現の水素生成効率に対する影響に注視した実験系を構築する.そのために,プラズモンを発現しない銅/酸化銅(Ⅰ)薄膜基板を参照基板として活用し,これらの水素発生能を比較する予定である.酸化銅(Ⅰ)は,光照射に対して不安定であることが多くの文献にて報告されている.これは電荷分離効率の低さに起因すると考えられるため,構造体への白金助触媒の担持や,ホールスキャベンジャーの添加等によって電荷分離効率の改善を図り,安定かつ効率的な水素発生系の創出を目指す.この一連の検討によって,高効率なプラズモニック水素発生触媒の創出が可能になると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に使用する研究のための消耗品は十分であり,購入する必要性が無い状況であったために当該助成金が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,銅のプラズモンを利用する新たなエネルギー変換系に取り組む予定である.これを行うにあたり,相当の消耗品を購入する必要があり,これに使用する予定である.
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