本研究では、熱活性化遅延蛍光分子(以下、TADF分子)の三重項励起子を一重項励起子にアップコンバージョンする技術をさらに発展させ、蛍光分子を発光材料とする有機EL素子中にTADF材料をアシストドーパントとして有機EL素子の発光層中へ分散することで、内部量子効率100%で発光する蛍光有機EL素子を、申請提案の通り実現した。また、昨年度までにTADF分子を発光分子とした有機EL素子と比較し、2.5倍以上に達する素子耐久性の向上が可能であることも見出した。さらに、申請段階で提案していた新奇なエネルギー移動過程を、研究の進捗によりさらに発展させ、レーザー色素へと三重項励起エネルギーを移動させることにより、従来は不可能であると考えられていた三重項励起状態を経由したレーザー発振が可能であることを、世界に先駆け実証することにも成功した。発光量子効率および発光寿命などの各種光学物性評価に基づき、各種のTADF分子における三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差速度(kRISC)を算出した結果、10^5 sec-1程度の速いkRISCを有するTADF分子においてレーザー色素からのレーザー発振が可能であることを見出した。これはその速いkRISCにより、生成された三重項励起子は速やかに一重項励起状態へと逆系間交差するため、三重項-三重項間相互作用による励起子消滅過程が抑制された結果、速やかにレーザー色素の一重項励起状態へと励起エネルギーが移動したためであると結論している。
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