本年度はπ共役系ユニットを側鎖に有するLangmuir-Blodgett(LB)膜における精密構造解析を検討した。昨年度までに作製したpDDA:pCzAA共展開膜累積体において、混合比率を制御した一連の試料群について、SPring-8を利用したGIXD測定および実験室装置を用いたX線反射率(XRR)測定とフィッティングによって散乱長密度(SLD)プロファイルを見積もった。GIXD測定において、面外方向に強いスポットが見られ、単分子層2層分の周期に対応すると考えられる。またpDDA単膜では見られなかったハローパターンが見られ、pCzAA中のカルバゾール基由来の散乱と考えられ、カルバゾール基は面内では配向しておらずランダムな形態を取っていることが分かった。一方、XRR測定では測定の結果、pCzAAが20mol%の系を除き明確なフリンジとBraggピークが見られた。このデータについて親水部、疎水部を仮定したモデルを仮定して解析した結果、いずれの系においても親水-疎水部の周期構造に由来すると解釈できるSLD密度の空間的な振動パターンが見られ、カルバゾール環が基板法線方向に立って存在しているというこれまでの解析結果を支持した。また、この結果から1層あたりの平均膜厚を求めると、GIXD測定によって得られた値とよく一致し、なおかつpCzAA比率が上がるにつれて一層あたりの膜厚が小さくなることが分かった。さらに、真空中150°Cの熱アニール後X線反射率の経時変化を追跡しところ、60分の加熱によってもフリンジパターンは維持され、SLDプロファイルでも親水-疎水部に起因すると考えられる電子密度分布のゆらぎは維持されていた。この結果はpDDA単膜の場合(15分の加熱でパターンが消失する)と大きく異なりpCzAA含有単分子膜の高い熱安定性を示している。
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