表面に機能をもつ機能性高分子微粒子は様々な用途に利用されている。微粒子表面の化学構造は微粒子の特性を決定づける重要なファクターであるが、定量化が困難なため不明な点が多い。また、微粒子表面を機能化する際に適用できる微粒子本体の化学種にも制約がある。本研究では様々な化学種からなり、表面構造の明確な高分子微粒子の合成と精密制御を目的として検討を進めてきた。 平成28年度は、カチオン性の表面をもつ高分子微粒子を検討の対象とした。まず、カチオン性のポリペプチドであるポリリシンをマクロモノマー化した表面修飾剤を開発した。私たちは以前にアニオン性のポリペプチドからなるマクロモノマーを開発したが、これと同様のルートで合成することができなかったため、ここでは新規な合成法を採用し、目的とするマクロモノマーを得ることができた。次に、このマクロモノマーを分散安定剤としたスチレンの分散重合を行ったところ、表面にポリリシンが担持したポリスチレン微粒子を得ることができた。得られた微粒子の粒径は均一で制御が可能であり、さらにpH滴定から表面構造を明確にすることができたことから、粒径と表面の精密制御に成功したと言える。一方で、別のマクロモノマーを用いたときとは挙動の異なる点もあり、微粒子表面形成のメカニズムの詳細を議論した。 分散重合に使用するモノマーをメタクリル酸メチルに変更したところ、ポリリシンが表面に担持したポリメタクリル酸メチル微粒子の粒径制御に成功した。メタクリル酸系モノマーには様々な官能基を導入できることから、この結果は、様々な機能を本体にもちポリリシンで表面修飾が施された微粒子の精密合成が可能であることを示している。さらに、表面にポリリシンが担持したポリスチレン-ポリアクリロニトリル共重合体からなる高強度微粒子も合成し、表面を機能化した高分子微粒子の本体の多様化に成功した。
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