研究課題/領域番号 |
26810122
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
嵯峨根 史洋 静岡大学, 工学研究科, 助教 (70443538)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 黒鉛電極 / アニオンインターカレーション / 電気化学反応 / 速度論 |
研究実績の概要 |
本研究はアニオン種の黒鉛電極への電気化学的挿入脱離機構の解明を目的とする。本年度はリチウムイオン電池に用いられる種々のアニオン種を黒鉛電極に挿入し、その反応の活性化エネルギーを調べることでアニオン種の大きさが速度論に及ぼす影響を検討した。 モデル電極として高配向性熱分解黒鉛を用いた電気化学セルを構築し、サイクリックボルタンメトリーよりアニオン種の挿入脱離に起因する酸化還元電流を確認した。アニオンの挿入電位はアニオン種によって異なるものの、アニオンのサイズとの因果関係は認められなかった。続いて交流インピーダンス測定よりアニオン種の電荷移動過程に起因する円弧成分を確認した。電荷移動抵抗の温度依存性から得られる活性化エネルギーは20~28 kJ/molとなり、リチウムイオンが示す活性化エネルギーよりも著しく小さな値となった。これはアニオン種が溶媒和状態に無いため脱溶媒和過程を必要としないことが原因と考えられる。一方、反応の活性化エネルギーは用いるアニオン種のイオン半径とともにわずかに増大する傾向を示した。以上の結果より、黒鉛電極へのアニオン種挿入反応の活性化エネルギーは、アニオンの挿入に伴う黒鉛層間の膨張収縮によるものであることが示唆された。 本研究はアニオン挿入反応を正極に用いた新規蓄電デバイス開発を見据えた基礎研究である。アニオン種の挿入反応に対する活性化エネルギーが小さいことは、反応が本質的に速いことを示しており、高速充放電特性に優れたデバイスの開発が期待できる。本年度の研究成果においてアニオン種によって活性化エネルギーに変化が認められたものの、いずれの系においても30 kJ/mol以下の値であり、脱溶媒和を伴わない相間移動をエネルギーデバイスに用いることの優位性を示すことができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は目標として掲げた、アニオン種が活性化エネルギーに与える影響について調べ、いずれのアニオンにおいてもリチウムイオンと比べ著しい値を得た。これはアニオン種の反応が本質的に速いという申請時の仮定を支持するものであり、計画通りの成果を得たものと考えている。また、アニオン種のサイズと活性化エネルギーの相関関係を得ることができたことより、脱溶媒和仮定を伴わない相間移動においては、電極側に活性化障壁の要因が存在する可能性を示すに至った。この結果は従来のリチウムイオン電池系とは異なる挙動であり、アニオン種特有の現象を新たに見出したと言える。 本年度のもう一つの目標とした、溶媒種の影響については現在研究途中であり、特に進捗を妨げる問題も発生していないことより、おおむね順調であるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
27年度は26年度に引き続いて溶媒種が活性化エネルギーに及ぼす影響について調べる。また、対カチオンをリチウムイオン以外のものとすることで、カチオン-アニオン間の相互作用が界面イオン移動に及ぼす影響についても調べる。カチオン-アニオン間の相互作用は塩濃度によっても変化するため、希薄溶液や濃厚溶液を用いたアニオン挿入反応についても同様に調べる。 また、26年度成果によって明らかとなった黒鉛電極側の活性化障壁について詳細に調べるため、種々のアニオン種を挿入した黒鉛層間化合物を作製し、そのステージ構造をエックス線回折法により明らかとする。黒鉛に着目した研究は28年度に注力することを計画しており、27年度はその基礎となるデータ収集を中心に行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
計画通りの執行を心がけていたが、伝票の価格入力ミスにより残額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に組み込む。小額のため予算計画自体には変更はない。
|