界面活性剤を鋳型に用いたsol-gel法により、多孔性チタン酸バリウム薄膜を作製した。焼成に伴う細孔骨格内での結晶成長によりメソ細孔同士の結合が生じた結果、メソ細孔の規則性は失われてしまったものの、メソ細孔構造自体を保持することには成功した。Ramanスペクトルでは710 cm-1 付近に正方晶由来のピークが表れ、作成した薄膜の強誘電性が確認できた。加熱ステージを用いて、高温下での測定を行ったところ、バルク単結晶のCurie温度(約130℃)以上でも正方晶由来のピークが観測された。このことから、メソ細孔を導入することでチタン酸バリウムの強誘電性が熱的に安定化されることが実証できた。実際、多孔性薄膜においてはCurie温度は約470℃に達し、強誘電体材料として広く使用されているチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)のCurie温度を凌駕した。その一方、同様の手法により作成した無孔性薄膜においては、このようなCurie温度の向上は見られなかった。 さらに、高速Fourier変換法を用いることでメソ細孔により誘起された歪みについて詳細に調べ、[1-10]方面に圧縮歪みがもたらされていることが判明した。この方向の圧縮歪みはc/a比を増加させ、Ti4+イオンの結晶中心からのずれを助長させる。その結果、電気双極子モーメントが増加し、強誘電性(圧電性)の向上が期待される。その一方、結晶全体を等方的に歪ませる[11-1]方面の歪みは観測されなかった。このような異方性歪みにより、多孔性薄膜においては圧電ヒステリシス曲線の拡大が観測された。 本申請課題を通じて、細孔導入によりチタン酸バリウムの強誘電性相を安定化させると共に、それがもたらす異方的な歪みにより、強誘電性(圧電特性)の向上に成功した。この成果により、「細孔により骨格材料の物性を変える」という新たなコンセプトを提示することができた。
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