研究実績の概要 |
半導体ポリマーを用いた有機デバイスは、低コストでのデバイス作製が可能であるほか、柔軟かつ伸縮可能な次世代のエレクトロニクスとして注目されている。本研究では、より高性能なデバイスを達成するために、新たな電子不足芳香環であるピレノ[4,5-c:9,10-c’]ビスチアジアゾール (PyTz) を合成し、それらを主鎖に導入した新規半導体ポリマーの開発を目的に研究をおこなっている。 まず昨年度に合成を達成した PyTz モノマー前駆体 (PyTz-2T) における基礎物性の調査をおこなった。優れたアクセプターとして知られるベンゾチアジアゾール誘導体 (BTz-2T) と比較した場合、PyTz-2T はより拡張したπ電子系を持つにもかかわらず、100 nm 程度の短波長シフトと、0.4 eV 大きいエネルギーギャップが得られた。また、算出した HOMO レベルは 0.2 eV 程度低いことから、BTz-2T よりも共役が拡張していないことが明らかとなった。これは理論化学計算より、ベンゾチアジアゾールの o-キノジメタン構造がピレン周辺のベンゼン環によって安定化を受けるため、キノイド性が低下したことによる。この結果から、PyTz は新たな種の弱い拡張π電子系アクセプターであることを見出した。このような特徴は、高効率タンデム型太陽電池のフロントセル材料として大いに期待できる。 また、確立した合成法を用い、PyTz 誘導体の大量合成をおこなったところ、反応スケールの増加に伴い、目的物が全く得られないことが分かった。種々の反応条件を精査したが、全く改善は見られていない。その結果、ポリマーとして展開するための PyTz が得られていない現状にある。現在、PyTz 効率的合成法を別途確立するため、計 6 ステップでの新たな合成経路を設計し、途中までの合成を終了している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、急務とされる別手法での PyTz 骨格の効率的合成手法の開発をおこなう。チアジアゾール環形成反応において重要な点は、隣接した位置に二つのアミノ基を導入する点である。これまでは、ケトンのオキシムを経由した変換によりアミンを得ていたが、極性の高い官能基を複数有するこの手法では精製が極めて困難となる。そこで、臭素を触媒的なアミノ化によって変換する経路を設計した。まず、母体ピレンを出発原料とし、Ir 触媒を用いた直接ホウ素化と続く臭素化、シリル化によって2,7位をシリル基で保護したピレン誘導体を合成する。その後、4,5,9,10位を臭素化した誘導体を合成する。ここまでの経路は、既知の合成反応を組み合わせたものであり、すでに途中段階までの合成を終えている。続いて、Pd 触媒を用いたアミノ化をおこない、得られたテトラアミノピレンを環化することで PyTz を合成する。その後、2,7位を再度臭素へと変換し、続くアルキルチオフェンとのクロスカップリングと臭素化を経て、目的の PyTz モノマーを得る。ドナーユニットとして用いるビチオフェンやチエノチオフェン、また必要な可溶性側鎖などはすでに合成しているため、PyTz モノマーが得られ次第、速やかにこれらと共重合することで目的のポリマーを開発する。その後、得られたポリマーの物理化学特性および薄膜構造の解析、薄膜太陽電池や電界効果トランジスタへの応用をおこなうことで、可溶性側鎖の分岐位置や長さ、異なるスペーサーによるポリマー主鎖構造の変化や規則性の違いによる特性や構造への影響を調査する。これにより、それぞれ薄膜太陽電池および電界効果トランジスタに適したポリマーを生み出すほか、構造-特性相関を明らかとする予定である。
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