本年度は,当初の目的である化学的湿式法の分子プレカーサー法を用いて,p型酸化物薄膜トランジスタ(p型TFT)の形成を達成した。昨年度に検討したCu2Oプレカーサー溶液を用いて,Si/SiO2基板上に薄膜形成し,その薄膜トランジスタ特性を調べた。マイクロピペッターを用いて調製した溶液を基板に滴下し,スピンコート法で塗布した。これを,乾燥器に入れ,10分間プレヒートした後,青色透明のプレカーサー膜を得た。このプレカーサー膜をAr気流中で熱処理して,酸化銅薄膜を形成した。昇温速度,熱処理時間などの熱処理条件を種々検討し,Si/SiO2基板上に約30 nmの膜厚のCu2O薄膜を形成した。その薄膜にマスクを用いて金電極を形成し,トランジスタ特性を半導体パラメータアナライザで調べた。形成した膜は,ゲートバイアスが-40 Vのときに高いオン/オフ電流比(ON/OFF比)がとれ,トランジスタとして動作した。これらの具体的な成果内容は,論文,学会を通じて発表する。 更なる高いオン/オフ電流比を目指して,アニール処理方法の検討またはシアンなどによる化学的な処理によるダングリングボンドの補修が効果的であると考える。先に継続して,これらを検討する。また,今後の展開として,これらの研究成果をベースにn型酸化物薄膜トランジスタの形成を分子プレカーサー法で試み,それらを組合せた透明CMOSの形成など,様々な応用展開を考えている。以上のことから,3年間にわたる研究により当初の目的である化学的湿式法の分子プレカーサー法を用いて,簡便にp型酸化物薄膜トランジスタ(p型TFT)の形成を達成した。
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