平成28年度は,溶接接合時に熱源を揺動させずに接合する自動溶接材料を対象として本手法を適用し,その推定精度の評価を行った.そして,本手法により比較的精度よく推定する推定方法について検討した.対象とする継手は,主に輸送用機器に対する先進的な接合方法として注目されている摩擦攪拌溶接(Friction Stir Welding)接合材料とした. 部材表面の測定結果から,本手法により部材全域の残留応力分布を推定し,その裏面の推定値と,X線回折により直接測定した値とを比較したところ,比較的良好な推定精度を達成することができた.具体的には,最も推定精度の低い箇所で,およそ30~50MPaほどのずれが生じた程度であった.また,接合条件に対して導くパラメータの分布形状を適切に設定することが重要であることを明らかにした. 本研究は,中性子回折法を用いることなく,現場で適用可能なX線回折法を用いて,余寿命評価のためのき裂進展予測に必要な,部材全域の3次元残留応力分布を非破壊的に評価することを目的として,溶接接合材料を対象に実証実験を行った.その結果,溶接接合時に熱源を揺動させるような場合には,求めるパラメータが比較的複雑な分布となるが,自動溶接の場合には,本手法により比較的精度よく残留応力分布を推定することができることを示した.また,推定精度を向上させるためのX線回折の計測条件や推定方法を明らかにすることで,本手法の実用性を高めることができた.さらに,本手法を現場で利用していただくためには,残留応力の生じる様々な機械構造物に対して本手法を適用し,その推定精度を示すことが重要であると考えられる.
|