前年度までの検討において,FCC金属多結晶体内において,必ずしも初期方位に対するシュミットファクターが最大となるすべり系が活動するとは限らず,結果的に格子回転方向も古典理論では十分に説明できないことが確認された.平成28年度は,この結果を踏まえて種々の力学的因子が活動すべり系と格子回転方向に及ぼす影響について精査した.特に,同一結晶粒内で複数の方向への格子回転が確認されている実験結果を対象にした検討を重点的に行うことで,これを結晶塑性論の枠組みで定性的に再現できる範囲を示し,新たな格子回転モデルの基盤となる知見を得ることができた.この結果と,研究代表者が過去に構築した材料モデルを融合することで,より高精度化された多結晶塑性モデルを構築できる可能性を示唆した.以上を通じて,本研究課題を総括することができた. 研究期間全体を通じては,まず多結晶塑性論の枠組みにおいて,結晶粒形状,結晶粒の大きさ,結晶方位(シュミットファクター),の3因子を考慮した複数のRVEを用い,これに対して同一の巨視的境界条件下を課し,その材料応答をそれぞれ求め統計的なデータ収集を行った.この結果を踏まえ,実験的に観察される多結晶構造を有する有限要素モデルを作成し,可能な限り実験と同等の条件による解析を実施することで,既存の多結晶塑性モデルによる結晶格子回転の再現可能範囲を示した.得られた結果を踏まえ,結晶塑性論の枠組みにおけるより高精度なモデル構築の可能性を見出した.以上を通じて得られた成果を,現在投稿論文として執筆中である. 研究期間終了後の展望として,得られた知見に基づく多結晶塑性モデルを,異なる結晶構造を有する金属材料へと展開することが挙げられる.特に,より複雑な材料挙動を示す六方晶金属における格子回転機構の解明に向けて,提案モデルの活用が期待できる.
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