本研究は,ガラス基板表面をレーザにより局所改質することで,溝加工を伴わない表面微細流路 および液滴の自己輸送を実現することを目的とした.レーザは波長9.3μmの炭酸ガスレーザマーカを使用し,基板は耐熱性の高い溶融石英基板を用いた. 石英基板の初期接触角の安定性向上と改質による効果の時間的寿命の向上を目的に,石英基板にシランカップリング剤による表面処理を行った.これは石英表面に疎水性のCF3基または(CH3)2基を導入することで,水接触角100°前後に整える効果がある.ここに炭酸ガスレーザを照射すると,レーザ出力や操作速度に依存し接触角は20~100°の幅広い範囲で制御可能となった.さらにこの効果は半年以上の持続性があることも確認した.加熱炉による基板加熱を行うと一定の温度で接触角の減少が見られることから,本改質は熱的な作用によるものと推定した.また,接触角変化が疎水基の減少によるものであることを,X線光電子分光法により確認した. 提案する改質法が表面官能基の変化のみに由来し,物理的な加工を伴わないことを,改質後表面の形状測定と可視光透過率測定により示した.走査型プローブ顕微鏡で表面形状を観察した結果,最も接触角変化の大きい試料でも,改質前後の表面形状や表面粗さに有意な差は見られなかった.また,紫外・可視分光光度計で透過率測定を行った結果,波長400~900nmの範囲で透過率は約93%であり,改質による影響は見られなかった. 濡れ性の制御により,溝加工を伴わない表面微細流路の作製を行った.0.5mmピッチで照射条件を変え,段階的に接触角を変化させることで,液滴の自己輸送能力を発現した.以上より,本研究ではダストフリーで石英基板の特性を維持したまま自己輸送能力を有する微細流路形成に成功し,新しい微細流路形成技術につながる成果が得られた.
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