研究課題/領域番号 |
26820023
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大家 哲朗 慶應義塾大学, 理工学部, 講師 (10410846)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 板成形 / 高張力鋼板 / 複層鋼板 / 成形限界 / 塑性構成式 / 非関連流れ則 / 3次元局所分岐理論 |
研究実績の概要 |
本研究は複層鋼板の材料モデル構築に関する研究であり,その主な目的として成形限界予測精度の向上が挙げられる.目的達成のためには材料モデルすなわち塑性構成式と,解析時に使用する材料データ取得法の改善が必要と考え,平成26年度はこれらに関する研究を行った.複層鋼板のように圧延で作製される鋼板は一般に強い異方性を示すため,異方性塑性構成式が必要となる.提案する塑性構成式は非関連流れ則に基づいており,多様な材料特性や変形様式に対応できるものである.以前の研究で降伏関数の高次化には成功していたが,より複雑な変形場に対応するために塑性ポテンシャル関数の高次化に取り組み成功した. 板材であっても大ひずみ域で破断が生じる場合があるため,高精度な大ひずみ域加工硬化曲線を推定する手法について研究を行い,基本システムを完成させた.新たな圧縮試験法と有限要素解析に最適化手法を組み合わせ,大ひずみ域まで高精度に加工硬化曲線を推定できるようにした.複層鋼板では板厚方向にも幾何学的な不均質性があるため,従来の平面応力状態に基づく予測手法では精度向上の達成が困難であるため,3次元局所分岐理論の適用が不可欠であると考えた.3次元局所分岐理論による成形限界予測において提案手法で取得した材料データを用いたところ,破断予測精度が向上することが実験的に確認された.複層鋼板では圧縮試験片を作製することが困難であるために,本手法をそのまま適用することは難しいが,材料データと成形限界予測に関する重要な知見が得られた.以上のように,平成26年度は基礎理論と材料データ取得法の面で大きな進展が見られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では初年度に基本的な実験を実施する計画であったが,予算額の変更および理論研究面での困難さが明らかとなったことから,理論面における基礎研究を先行させた.実験に関しては予定した実験をすべて実施するのではなく,予算内で重要な実験のみを行うことで当初計画した目的の達成を目指す.平成26年度終盤から実験計画を行ったが年度内には時間的予算的に計画通りの実施が困難であったため,平成27年度前半にすべての実験を実施することとした.以上のように,実験面では計画遂行がやや遅れているものの,理論および材料データ取得法の面で当初の計画以上の進展が見られたため,全体としてはおおむね順調である.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は主に実験面で研究を進展させる.複層鋼板とその構成材のの引張り試験片を用意し,引張り試験によって応力ひずみ曲線を取得する.その際には破断時のひずみと荷重値を記録しておく.更に,変形を受けた試験片の断面観察を行って内部組織の様子を把握する.材料データからはn値とITO-GOYA構成式におけるKc値を取得して3次元局所分岐理論での成形限界予測計算を行えるようにする.有限要素解析によって申請者が提案する材料モデルを適用した成形限界予測を実施する.複層鋼板板材に対して成形限界試験を行い,r値と各応力比における成形限界ひずみを取得する.実験データとシミュレーション結果と比較することで提案手法の有用性についての検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
予算額の変更および研究項目の優先度変更により,年度内には十分な実験遂行が困難と判断した.無理に使用せずに次年度に残すことによって,予算をより有効に活用するために次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度予算と合わせて,計画した実験の実施およびその他の研究遂行に必要な物品等に活用する.具体的には試験片材料費,荷重計等の装置購入費,実験外注費などへの使用を計画している.
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