研究課題
ポンプに代表される水を扱う流体機械内において、機器の損傷を招く一因に、水中圧力波の非線形発展による衝撃波形成が挙げられる。水に気泡群を意図的に混入させ、その振動を能動的に制御できれば、波の分散性の効果を圧力波伝播に持ち込むことが可能となる。この効果を、波の散逸性の効果よりも卓越させることができれば、衝撃波の音響ソリトンへの遷移が期待される。本研究の狙いは、気泡流中における非線形波動の散逸性を抑制して分散性を増幅させて、衝撃波を抑制するという新技術の理論的基盤の創成にある。そのポイントは、分散性や散逸性などの波の多様な性質の大きさを、波の非線形性の大きさを基準として適切に見積もる操作(代表者ら、2010)を利用して、波が衝撃波か音響ソリトンのいずれになるかの予測にある。本年度の主要な成果は以下のとおりである:1.流体機械内において重要となる、圧力波伝播の多次元性および気泡群の非一様分布を、波の分散性と散逸性と同等に、非線形性を基準として見積もることができる方法論を提示した。これを用いて、非一様場における準一次元伝播を記述する2種類の非線形波動方程式を導出した。2.水の圧縮性の効果が招く高速伝播圧力波の有限振幅伝播を、弱非線形のレジームで調べた。圧縮性の大小に応じて、分散性と散逸性の大きさが劇的に変化するため、その取扱いにおいては、いくつかの周波数帯に分類することが重要となる。その見通しを立てた。
2: おおむね順調に進展している
代表者の研究機関異動のため、研究開始までにある程度の時間を要したが、概ね、申請書の初年度計画に記載のとおりに研究を遂行できた。具体的な成果は、気泡流中の非線形音響伝播において重要な散逸性と分散性を見積もるための理論の拡張、および、その理論を用いてのいくつかの波動現象の予測である。これらの成果は、散逸性と分散性の大小に支配される、衝撃波の音響ソリトン遷移の確固たる基盤になりうるものである。
理論解析については、まず、初年度に引き続いて、上記実績記載の2に深く踏み込む。さらに、気泡流中の弱非線形波動を包括的に調べたうえで、いかなる状況下において、圧力波が衝撃波に発展するか、音響ソリトンに発展するかの判断を下す。なお、代表者の研究機関異動によって、現在、土木工学(水面波としてのソリトン)および航空宇宙・機械工学(散逸波としての衝撃波)の流体工学の計測家との共同研究が可能な環境にある。そもそも、分散性と散逸性を非線形性を基準に見積もる方法論自体が、実験を意識した理論体系である意味において、理論解析の発展はもちろんであるが、理論の実験的検証にも見通しを立てている。
申請者の研究機関異動に伴って、研究計画にわずかな遅れが生じたため、次年度使用額が生じた。
成果公表(論文投稿および学術会議発表)に利用する予定である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
The Journal of the Acoustical Society of America
巻: 137 ページ: total 13 pages
混相流
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Proceedings of the 21st International Congress on Sound and Vibration
巻: 該当なし ページ: CD-ROM
京都大学数理解析研究所講究録
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巻: 該当なし ページ: USB