本研究は、世界中で活発に研究が行われている羽ばたき飛行の未解明な問題の一つである羽ばたき飛行中に生じる可聴域の羽ばたき音(羽音)に関するものである。主な目標として、羽ばたき音の発生メカニズムを解明すること、羽音の特性を理解すること、羽音の制御の可能性を検討することである。それらを行うためにハチドリを模倣した羽ばたき小型模型飛行機を利用し、本年度は以下の研究活動を進めた。
本年度上期は昨年度に実施した羽ばたき模型飛行機の羽音の計測データの解析を進め、羽ばたき音の発生メカニズムの解明と羽音の特性の理解に関する研究を行った。結果、羽ばたき機の羽音は指向性があることや羽ばたき周波数のハーモニックスの音が大きいことなどの羽音の特性を明らかにした。さらに、羽ばたき運動と羽音の特性の解析結果より、羽音の発生メカニズムと羽ばたき中に作り出す渦流れとの関連性を確認した。これについては、今後解析を進めて定量的なデータを示し、明らかにする予定である。
本年度下期は、上期で得られた知見をもとに羽ばたき機の羽音の制御の検討を進めた。検討の末に、羽周りの渦構造を変化させる効果が期待できる羽の材質や厚みを変える工夫の着想を得た。それらの工夫により卓越した羽音周波数の抑制を目指し、無響室での実測を行った。実測結果から羽の工夫により羽音卓越周波数ピークが高周波側にシフトすることを明らかにし、羽音の制御の可能性を示した。さらに、昨年度と本年度上期で利用していた羽の構造が最も静音性も良いことがわかった。これはその羽を適用した羽ばたき飛行機が羽ばたき飛行の実績のある機体であり、空気力学的にも良好な機体が空気音響力学的にも性能が良い可能性を示唆している。今後他の羽を適用した羽ばたき模型飛行機の空気力測定などを行い、羽音と空気力の相互関係を定量的に示していく予定である。
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