研究課題/領域番号 |
26820054
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安養寺 正之 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (70611680)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 感圧塗料 / 羽ばたき翼 / 低密度風洞 / 陽極酸化皮膜 / 非定常 |
研究実績の概要 |
本研究では超低レイノルズ数領域の実現のために,通常の低速風洞では得えられない比較的高い気流動圧を確保しつつ,感圧塗料(PSP)の発光強度を高めることができる低密度風洞を用いて羽ばたき翼特性の解明に迫る.羽ばたきの非定常運動特性をPSPで捉えるためには,減圧環境という特殊な条件下で圧力感度だけでなく如何に高い応答性を得られるかが重要な課題となる.本年度は当初予定していた陽極酸化皮膜法(AA-PSP)の他にPolymer-Ceramic PSP(PC-PSP)とThin-Layer Chromatography PSP(TLC-PSP)という3つの候補を選定し,減圧環境における各感圧塗料の基礎特性の比較と低密度風洞による実証試験を行った. 基礎特性試験では3つのPSPに対してそれぞれ2種類の色素を選定し,各PSPの圧力感度および温度感度など静的特性に対する減圧化の影響を調べた.一方,ゲインや位相といった周波数応答の動的特性を調べるため,“音響共鳴管”を用いた検証試験も行った.これらの結果,応答特性に対する減圧化の影響は主に色素に律速され,その程度はバインダによって異なることが分かった.また色素にRuDPPを用いたAA-PSPが最も応答性特性に優れており,低密度風洞で使用する非定常PSPとして最適であると結論づけた. このAA-PSP/RuDPPを適用した低密度風洞試験を実施し,円柱周りのカルマン渦放出に伴う非定常圧力場計測を行った.当初は各画像におけるノイズが大きく,連続画像として非定常現象を捉えにくいという難題に直面した.そこで圧力変動における支配的な周波数を検出するため,高速フーリエ変換に基づいたデータ処理手法を適用することでノイズを低減化し,時系列データとしての圧力分布画像の取得に成功した.また熱線流速計とのスペクトル比較においても同様の特徴を捉えることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最大の課題であった減圧環境下における非定常感圧塗料の開発と計測手法の確立は予定通りほぼクリアできた.次の課題は開発した感圧塗料を適用した羽ばたき運動特性の把握である.現在のところ,2014年10月の異動に伴い,計測に必要な装置類の一部を新規購入した上で,計測システムを構築しなければならないという余剰作業が発生したため,この羽ばたき運動機構の計測システム構築に若干の遅れ(1ヶ月程度)が生じている.ただし,装置を更新したことによって機能が向上し,風洞計測とサーボ機構・カメラなど一連の同期計測や計測/データ処理/レポート化が一括してできる計測プログラムの開発が可能となった.現在,計測のみのプログラムの開発はほぼ終えている.今後,データ処理化及びレポート化までの機能を追加することで実験研究の大幅な効率化が見込まれるため,次年度には遅れは十分挽回できるものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従って,初年度に開発を進めた非定常感圧塗料(AA-PSP/RuDPP)を適用した羽ばたき運動の翼面圧力分布解析を実施する.まず迎角は各値に固定して翼の上下運動だけを行う単純な二次元的羽ばたき運動で翼上面の非定常圧力分布計測を行い,過去の文献と比較して渦の位置等の定性的評価および上下面の圧力分布積分から算出した揚力・推力の定量評価を行う.これにより各迎角時に発生する渦が揚力・推力にどの程度寄与するかを評価し,二次元的運動の基本的特性を把握して技術的にも確立させることで,迎角変化を伴う三次元的運動解析に繋げる.三次元運動解析では,迎角変化を伴った上下運動(静止飛行モード)と前後運動(前進飛行モード)の二種類の試験を実施する.特に前後運動では,羽ばたき翼の非定常流体効果を示す無次元周波数と揚力との相関を評価することで,どの程度の質量の生物が非定常な流体効果を利用しているかを明らかにしていく. また昨年度の結果では,ハイスピードカメラを用いた場合,画像ノイズの低減化は画像処理方法によって解決を図って来たが,これ以外の方法も合わせてノイズレベルを如何に低減させるかが計測制度上重要な課題となる.そこで次年度は惑星環境風洞(JAXA)の使用に加えて,レイノルズ数は合わせつつ,圧縮性効果が出ない範囲でより高い動圧を実現することができる火星大気風洞(東北大学)の使用も視野に入れている.
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年10月の異動に伴い,既存であった装置の一部を新規購入することになったが,異動先での装置や設備とのインターフェースの確認作業等,システム設計に時間を要し,物品選定に遅れが発生した.これにより発注が年度末に重なり,在庫品不足により次年度での使用に切り替えざるを得なかった.
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次年度使用額の使用計画 |
各装置のスペック定義及び物品選定は終え,見積もり書等も揃っているため,次年度早々に発注する.
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