本研究では,超低レイノルズ数領域で飛翔する昆虫などの非定常な羽ばたき運動の解明を目指し,翼面上に作用する非定常圧力分布を計測する高応答型感圧塗料技術の開発を目的とする.通常の低速風洞では得られない比較的高い気流動圧を確保しつつ,周囲の密度を下げることで感圧塗料(PSP)の発光強度が高まる低密度風洞を用いることで,計測の可能性が初めて見えてくる. 本年度は羽ばたき翼の代表形として平板翼を用いた低密度風洞試験を実施した.平板翼模型に陽極酸化皮膜法を適用し,周波数応答特性が最も優れていたRuDPPを塗料として用いた.今回の試験では,低密度風洞における非定常感圧塗料の計測手法確立に重点を置く.そのため模型は運動させず,迎角を0 degに固定した.この状態で模型前縁から剥離した流れが再付着する際,再付着付近から後縁に放出される渦による非定常圧力変動を感圧塗料で捉えることを狙った.実験の結果,ハイスピードカメラを用いた非定常PSP計測自体は成功した.しかし,画像解析を重ねた結果,圧力変動の周波数がほとんどない表れない結果となった.実際の昆虫などの羽ばたき運動時の流れを再現するために“無次元周波数”を合わせたが,低密度風洞の場合,この周波数は5 kHz程度に相当する.この周波数に合わせてカメラのフレームレートを上げたことで,全体的に画像が暗くなり,SN比が悪化したことが原因の一つと考えられる.発光量の強い光源を用いるなど,様々な試行錯誤を繰り返したが,現状のツールでは改善には至らなかった.ただし,渦放出による模型表面での圧力変動そのものが微小であるために,本感圧塗料の精度では捉えきれなかった可能性も否定できない.期間内に目標としていた結果までは得られなかったが,円柱での非定常計測に成功している経緯から,平板でも圧力変動の大きい条件を選定し,再度,挑戦していく.
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