研究実績の概要 |
H27年度は,昨年度の試作結果を受け,近接場効果を利用した高開口率MEMSラジエータの設計,試作の改良およびラジエータの性能評価を行った. 設計の改良では,近接場効果を発現し,かつMEMSプロセスに適した材料の選定手法として,従来の近接場理論の平行平板モデルを発展させ,デバイスモデルに則した多層膜計算モデルを構築した.シミュレーションの結果を用いてTi, Auを上下電極,絶縁膜としてSiO2を用いた場合の近接場効果を含むデバイスの各種熱伝導解析を明らかにした.さらに,ばねの長さと幅がラジエータの熱流束変化にどのように寄与するかをダイアフラムの2次元平面に対して有限体積法による詳細な熱解析により系統的に推算した.最終的な設計として,隣接するダイアフラムでばねを共有することにより,従来のMEMSラジエータの開口率61%から89 %にまで向上させた.上記のように,本研究では近年注目されている近接場効果の理論だけに留まらず実応用デバイスへの設計指針を明らかにした. また,パリレン樹脂を用いた表面マイクロマシニングにより,静電駆動のダイアフラム構造を持つプロトタイプの試作に成功した.さらに性能評価として,加熱実験を行い,ラジエータ表面温度がON状態では58.0 ℃から106.4 ℃まで上昇し,ON/OFF変化によるデバイス表面からの熱ふく射による熱流束が144%増加することを明らかにした. 以上の研究成果は,宇宙分野に留まらず,動的制御を必要とする除熱問題に適用可能な,新たな熱制御手法であり,熱効率の高いシステムを可能にすることで省資源を可能とする技術として期待される.
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