研究課題/領域番号 |
26820065
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 大志 北里大学, 北里大学保健衛生専門学院, 講師 (20549943)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 凍結手術 / 温熱療法 / 併用療法 / 凍結加温手術 / 治療器 / ペルチェ素子 / スターリングクーラ |
研究実績の概要 |
本年度では、研究計画に従い凍結手術と温熱療法の併用療法である凍結加温手術が施行可能な凍結加温手術装置の作製と無負荷条件での性能評価実験を行った。凍結加温手術装置の作製では、まずペルチェ素子用の温度制御機能付きの電源を選定し、実際に運転させることで凍結加温手術が実施できる可能性を確認した。次に、市販のアルミニウムボックスを、スターリングクーラ(SC)の先端冷却部に装着できるように機械加工した上で、熱伝導性接着剤を用いて先端冷却部に固定することで、冷媒の冷却が可能な冷媒チャンバを作製した。手術用プローブの作製では、銅製の丸棒材をカップ状に機械加工し、カップ底面にヒートシンクを取り付けると共に、カップ裏面にはペルチェ素子を熱伝導性接着剤で固定することで手術用プローブを作製した。最後に手術用プローブと冷媒チャンバをペリスタティックポンプ用のチューブで接続し、ペリスタティックポンプで冷媒を循環させる構造にすることによって凍結加温手術装置を作製した。 本凍結加温手術装置の性能を評価するため、まず無負荷条件で稼働させた際の最低到達温度を調べた。冷媒には、-60℃以下でも流動性が得られるエタノールを用いて実験を行った。実験では、T型熱電対とデータロガーを用いて装置稼働中の各地点における温度(手術用プローブ、SCの先端冷却部、エタノール冷媒、室温)を計測した。温度測定の結果、手術用プローブ温度は-45.3℃まで低下し、凍結手術に要求される-20℃以下になることを確認した。また、無負荷条件での温度サイクル評価試験の結果では、予め設定した凍結手術と温熱療法の温度帯でプローブ温度が固定され、複数回の凍結と加温過程が連続的に実現できることを確認した。しかし、冷媒のエタノール温度が経時的に上昇していたため、本装置に断熱材を装着し再評価したところ、エタノール温度の上昇が抑制された結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では、凍結加温手術装置を作製すること及びその装置性能を評価することを目的としている。凍結加温手術装置の作製では、計画の通りに温度サイクル用のプログラム温調機能付きの電源とペルチェ素子、スターリングクーラ、ペリスタティックポンプを用いて凍結加温手術装置を作製することができており、また性能評価実験としては最低到達温度の調査及び温度サイクル試験の結果からも凍結加温手術の実行可能性が示唆されているなど、おおむね順調に研究が進んでいる状態である。また、性能評価実験における温度測定の結果では、冷媒エタノールの温度上昇が確認されたため、本装置に断熱材を取り付けることでエタノールの温度上昇を抑制できた結果が得られている。したがって、当初予定していた計画通りの装置改良も順調に進んでいる状況にある。しかし、断熱材を装着した現状の手術装置においてもエタノール温度の上昇が確認されているため、チューブとポンプの摩擦熱が問題となるペリスタティックポンプを、摩擦熱が生じにくい歯車ポンプに変更することやスターリングクーラを冷媒チャンバの前段にもう一台追加する等の改良を施すことで冷媒としてのエタノール温度の上昇を抑制する対策をこれまでに考案しており、現在は上述の改良策を本手術装置に実装し、改良型の手術装置における手術用プローブ温度の最低到達温度や温度サイクル性能の調査を現状で実施できている状況であるため、研究計画通りに進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本装置を動物実験に適用するための前実験として、本凍結加温手術装置を1時間程度運転させた際の、より詳細な手術用プローブやエタノール冷媒の温度推移評価実験や手術用プローブ温度を多段階に設定るすることによって複数回の温度サイクルに対する性能を詳細に評価するための実験を実施する予定である。また、38℃程度まで加温したファントムに対して凍結加温手術を実行し、手術用プローブの最低到達温度の調査や温度推移を調べるための実験を行い、それらから得られた結果に基づいて本手術装置の更なる改良を継続的に行う予定である。平成27年度では動物実験を予定しているため、その動物実験の倫理申請や環境整備を行うと共に、倫理申請承認後には本凍結加温手術装置を用いて凍結加温手術を動物実験に供することで、凍結加温手術の生体に対する影響を調べる予定である。生体に対する影響評価実験について、凍結加温手術の組織冷凍や加温に影響を与えると考えられる血流の動態を把握するため、近赤外線撮影装置を用いて血管の撮影及び抽出を試みることによって非侵襲的な血流動態の把握と凍結加温手術の生体影響の関連性を調べることを予定しており、現状は近赤外線撮影装置の検討・選定を行っている状況にある。また、手術直後には肉眼的にうっ血状態などの生体反応を観察すると共に、うっ血範囲を計測することで凍結加温手術中のプローブ温度の推移との関連を調べる予定である。さらに、手術後には病理学的な手法を用いて組織標本を作製し組織学的な評価を行うことで壊死状態を光学顕微鏡下で判別する予定である。これらの手術中、手術直後、手術後評価によって手術用プローブ温度とうっ血範囲、壊死範囲の関連性を明らかにする予定となっている。
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