研究課題/領域番号 |
26820069
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
室町 実大 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創エネルギー研究部門, 研究員 (50711785)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱物性 / クラスレート水和物 / 結晶構造 |
研究実績の概要 |
課題(1) ガス分子のイオン性クラスレートハイドレート構造への適合性の解明:テトラブチルアンモニウムカチオンに対して酪酸や吉草酸などをアニオンとするイオン性ゲスト物質についてCH4またはCO2ガス加圧下における3相平衡測定を行った。これらの系では、CH4およびCO2ガスの相平衡条件は近い値となった。酪酸テトラブチルアンモニウムはTetragonal構造のハイドレートを生成すると考えられることから、本構造に対するCH4およびCO2の適合性はほぼ同等であると考えられる。これらの系において単結晶を生成しX線結晶構造解析を行った結果、Tetragonal構造を示唆するデータが得られた。 課題(2) 新たなイオン性ゲスト物質の探索:2-ヒドロキシ酪酸や3-ヒドロキシ酪酸などをイオン性ゲストアニオンとするイオン性クラスレートハイドレートの生成温度―濃度条件の測定と融解熱の測定を行った。3-ヒドロキシ酪酸をイオン性ゲストアニオンとすることでハイドレートの融点はおよそ282 Kとなり、2-ヒドロキシ酪酸に比して3 K程度融点が低下した。これは、ヒドロキシル基の位置によりアニオンの包接構造が変化したことで適合性が低下したためと考えられる。 課題(3) イオン性クラスレートハイドレートのガス選択性の解明:臭化テトラブチルアンモニウムをイオン性ゲスト物質としてCH4 + CO2混合ガス加圧下において単結晶を生成し、X線回折により分析した。結果から、Orthorhombic構造のハイドレートにはCO2が選択的に包蔵されていることが示唆された。アクリル酸テトラブチルアンモニウムをイオン性ゲスト物質とし、バッチ式の反応装置を用いてCH4 + CO2混合ガス加圧下で分離実験を行った。その結果、ハイドレート相へのCH4の濃縮を示す結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの研究により、カルボキシ酸をアニオンとするテトラブチルアンモニウム塩のイオン性クラスレートハイドレートについて、CH4およびCO2ガスの包蔵特性が明らかとなってきた。当初の予想とは異なり、ギ酸や酢酸など比較的小さなカルボキシ酸アニオンを用いた場合のガスハイドレートの生成は確認できていない。そのため、カルボキシ酸を全体的な傾向の把握には至っていないものの、Tetragonal構造やOrthorhombic構造などのイオン性クラスレートハイドレートの結晶構造に対するCH4およびCO2ガスの適合性の全体像は捉えつつある。 新たなイオン性ゲスト物質の探索に関してはヒドロキシカルボキシ酸の構造異性体について検討が進んできた。イオン性ゲストアニオン中のヒドロキシ基の位置によって熱力学的安定性が大きく変化することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度となるため、これまで展開してきた課題(1)-(3)を集約し、カルボキシ酸等の有機酸を対アニオンとするテトラブチルアンモニウム塩のイオン性クラスレートハイドレートのガス包蔵について体系的な理解を試みる。 課題(1)については引き続き信頼性の高い相平衡データの取得と単結晶X線回折測定によるイオン性クラスレートハイドレートの結晶構造の同定を行い、各イオン性クラスレートハイドレートの結晶構造に対するゲストガスの適合性を確認する。課題(2)において、他のヒドロキシカルボキシ酸等を対アニオンとして新規ゲスト物質の探索を行い、融点や生成熱等のデータを取得する。課題(3)混合ガスを用いて生成したイオン性クラスレートハイドレートについて、単結晶X線回折測定を実施する。これにより混合ガス加圧下での結晶構造およびガス包蔵特性の変化を解明する。 得られた成果は国内学会および国際会議、査読付き論文誌にて発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
現有するイメージングプレート型単結晶X線回折装置の故障により本装置による実験が十分に行えない状況にあったため、X線回折装置用入射コリメータについては購入を見送ることとした。また、研究の方向性も結晶構造の精密解析から結晶系の同定にシフトしているため、相平衡測定等の物性測定の補間データとして用いることとなった。そのため平成27年度は物性測定に注力しX線回折測定については補助的な利用にとどまったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当該X線回折装置の修理完了後、消耗品の購入に充てるほか、相平衡測定や熱量測定のための消耗品購入に活用する。また、国際会議への参加など成果発表の費用として使用する。
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