課題(1) ガス分子のイオン性クラスレートハイドレート構造への適合性の解明、および課題(3)イオン性クラスレートハイドレートのガス選択性の解明: メタンもしくは二酸化炭素をゲストガスとして生成したアクリル酸テトラブチルアンモニウム(TBA)もしくは酪酸TBAイオン性クラスレートハイドレートについて、詳細な相平衡測定を実施した。得られた相図により、アクリル酸TBAハイドレートおよび酪酸TBAハイドレートに対するメタンおよび二酸化炭素ガスの適合性はそれぞれ異なることが分かった。これらのハイドレートについて単結晶X線回折による結晶構造解析を進め、すべてTetragonal構造と同定した。各々の結晶格子は、二酸化炭素を含むハイドレートの方が長かった。非球状分子である二酸化炭素の包蔵により、格子が伸長した考えられる。単成分のガスにより生成したハイドレートにおいてガス包蔵量や原子位置等の精密な解析が困難であったため、混合ガスから生成したハイドレートについては結晶構造解析を実施しなかった。しかしながら、結晶格子の明確な違いはこれらのハイドレートに対するメタンと二酸化炭素の適合性の差を示し、これを利用したガス分離技術への応用が期待される。本成果は熱力学の有力紙に掲載された。 課題(2) 新たなイオン性ゲスト物質の探索: 最も単純なヒドロキシカルボキシ酸であるグリコール酸を有するイオン性クラスレートハイドレートを合成した。相平衡測定を実施したところ、当該ハイドレートの融点はこれまでに用いた乳酸や2-ヒドロキシ酪酸のハイドレートよりも低くなった。一方で、単結晶X線回折測定データからは同様の結晶構造を有することが示唆された。そのため、炭素鎖長が短くなったことにより、ハイドレート構造の安定性が低下したと考えられた。
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