本研究では細胞やモデル生物の操作,解析を行うために,局所加熱を用いた新たなラボオンチップの創製を目指した.研究当初は光電子デバイスを用い,光を熱エネルギーへと変換することで局所加熱を行うことを試みたが,作製した光電子デバイスでは十分な発熱量を得ることが困難であった.そこで,微細加工技術を用いたマイクロ電極をガラス基板上に作製し,ヒータとして用いることで局所加熱を実現した. ガラス基板上の電極としては,フォトリソグラフィーのリフトオフプロセスを用い,クロム・金の薄膜電極を作製した.また,流路を作製するための材料として,ゼラチン・寒天混合ハイドロゲルを用いた.ガラス基板上の電極を用いてハイドロゲルを局所的に融解し,チャネル形状を作製可能であることを確認した.また,チャネル径を加熱時間により制御可能であることを明らかにした.ハイドロゲルの融解量に対しては,1次元熱伝導方程式を用いたシミュレーションも行い,基板底面の冷却条件によって作製されるチャネル形状を制御可能であることも確認した.さらに,作製したチャネルに再びハイドロゲルを流し込むことで,作製したチャネルを埋め元の状態に戻すことも可能である.これにより,可変なマイクロチャネルをハイドロゲル内に作製することに成功した. さらに,本研究では細胞をハイドロゲル内に埋め込むことで,異種細胞の培養が可能な細胞構造体の構築も実現した.特に,ハイドロゲル内に異種細胞を層状に配した多層チャネルの作製に成功し,血管等の生体内に存在する多層細胞構造体を生体外にて実現できるシステムを構築することに成功した.
|