研究課題/領域番号 |
26820099
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
平山 尚美 東京理科大学, 基礎工学部, 助教 (70581750)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 熱電物質 / マグネシウムシリサイド / 不純物添加 / 第一原理計算 |
研究実績の概要 |
マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は元々n形伝導性を示すことが知られ、不純物もn型のものが主に用いられる。一方、p形不純物を添加した系は、熱電性能と高温安定性の点でn形Mg2Siに劣るという問題があった。例えば、代表的なp形不純物であるAgを添加した系では、高温で伝導性が変化してn形になってしまうという挙動が報告されている。 しかし、熱電発電ではpi型モジュール構造が広く用いられており、この構造ではn/p両極の半導体を必要とする。高温耐久性や機械的特性の観点からも、同一母材の素子を使用したモジュール作製は有用性が高く、もし安定かつ高出力なp形Mg2Siの作製が実現されれば、Mg2Siの性能を最大限に発揮できるモジュールが実現できると期待される。そこで我々は、安定かつ高出力なp形Mg2Siの実現を目指し、理論解析によるp形不純物の探索を行った。 本研究では、不純物サイトとして、MgおよびSi置換と4bサイトへの格子間侵入を考えた。また、ユニットセル複数個から成るスーパーセルを用い、96原子(Mg原子64個、Si原子32個)中に不純物原子を1個添加した場合(濃度~1.04%)について、擬ポテンシャル法に基づく第一原理計算を行った。 格子緩和計算の結果から、系の形成エネルギーを求めたところ、Li, Ga, Clの添加系では比較的小さな形成エネルギーでp型伝導性を実現できることが分かった。これらはそれぞれ、Mgサイト(Li)、Siサイト(Ga)、4bサイト(Cl)でp型となる。本研究から、従来のMg、Si置換型ドーパントだけでなく、結晶格子間に侵入して正孔を放出する侵入型p型ドーパントの可能性も示唆された。また、格子定数の変化などの構造特性と電子物性の調査により、Ag添加系が示した不安定さは、高温における不純物の占有サイトの変化や、格子の熱膨張に起因する可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに確立した計算手法により、電子物性や構造特性に対する不純物添加効果など、種々の物性の調査を本格的に推進できた。特に、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)のp型不純物探索のテーマでは、複数のドーパント候補元素に対して包括的な計算を実施し、従来知られているp型Mg2Siの不安定さの原因を示唆する重要な結果を得た。しかし、本研究の目標とする熱電物性の現実的な理論解析には、Mg欠陥による効果や、高温下における熱電物性の取り扱いを、今後検討していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで得た成果を土台としてより現実的な理論解析に取り組む。特に、Mg欠陥による物性への寄与や、高温における不純物添加系の熱電物性などの課題に取り組む。これらは理論的、数値的な取り扱いが困難であるが、材料の熱電特性を定量的に扱う理論を確立するには避けて通れない課題であると考える。最終年度では、これまで用いてきた第一原理計算の手法だけでなく、熱電輸送特性の解析手法についても検討し、計算機による熱電材料開発を大きく進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
行う予定だった出張(研究打ち合わせ)の一部が、研究の進行状況により次年度に延期になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度から延期された研究打ち合わせの旅費に使用する。
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