研究課題/領域番号 |
26820101
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
王 韜 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (60707818)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非絶縁コイル / 高温超電導コイル / 部分的要素等価回路 / 熱的安定性 / 層間接触抵抗 / 磁場遅れ / 電流減衰時定数 / 過渡的電磁・熱的振舞 |
研究実績の概要 |
次世代先進医療用MRIと基礎科学研究用NMRを普及するために,装置の小型・高機能化が不可欠となる。これらの応用に対して,過去に低温金属系コイル開発で検討された「線材に電気絶縁を施さないコイルの巻線方式」(以下「非絶縁コイル」と略記)を高温超伝導コイルの巻線に適用することにより,高温超伝導コイルの高磁場精度化・高安定化・小型化・高効率化を目指している。本年度(初年度)は,研究計画に沿って非絶縁コイルの解析モデルの確立と特性の解明を中心に研究を行った。以下は研究内容の詳細である。 1)非絶縁コイルの解析モデルの確立:非絶縁コイル内の電流・温度分布を評価できる部分要素等価回路(PEEC)モデルを確立し,熱解析とそのモデルに基づいた解析用計算機プログラムを開発した。 2)非絶縁コイルの特性の解明:開発した解析用計算機プログラムに基づいて,励磁・減磁,遮断および過電流時の非絶縁コイル内の過渡的電磁・熱的振る舞いを解明した。また,小型の非絶縁モデルコイルを用いた励磁・減磁実験と解析により,巻線内の過渡的電流分布の変化は発生磁場に影響を与えていることを明らかにした。解析と検証実験に得られる結果により,巻線の層間接触抵抗は非絶縁コイルの励磁・減磁時における磁場遅れの要因と考えられる。また,層間接触抵抗の増加は,実規模コイルの長い励磁遅れと遮断時の電流減衰時定数を削減するための有効の手段であることを明らかにした。 3)部分絶縁コイル(非絶縁コイルの一部の巻線に絶縁を施すコイル)の特性解明:申請者は開発した解析用計算機プログラムに基づいて,絶縁を施す局部の巻線の電流時定数が減少するのは,励磁時におけるコイル内の電流が絶縁を施す巻線部に集中する要因と明らかにした。また,部分絶縁コイルはNIコイルの課題である発生磁場の遅れについて改善が見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,既定の計画通り,非絶縁コイル内の電流・温度分布を評価できる部分要素等価回路(PEEC)モデルと熱の連成解析プログラムを開発し,非絶縁コイルの励磁・減磁時に於けるコイル巻線内の過渡的電流分布・温度分布を明らかにする目的を達成した。ただし,巻線の層間接触抵抗は巻線の表面粗さによる層間接触具合に支配的に影響され,同様の非絶縁モデルコイルを毎回使っても層間接触抵抗の大きいなはらつきが現れる。その原因により,層間接触抵抗をモデル化にすることができなかった。そこで,当初の計画を変更し,代替案として巻線層間に導電性のあるグリスを塗布することにより層間接触抵抗のばらつきを安定させることを平成27年度(次年度)の計画に取り込んだ。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終的な目的は,高電流密度・高熱的安定性が両立する高温超伝導コイルシステムを実現することを目的とすべく,次世代普及型医療用MRIと生命科学研究用NMRの高磁場精度化・高安定化・小型化・高効率化を目指し,これまで明確にされていなかった非絶縁高温超伝導コイルの層間接触抵抗,線材の非線形な超伝導特性(I-V特性),巻線の自己・相互インダクタンスを考慮できる非絶縁コイルの詳細等価回路モデルを確立し,回路解析と有限要素法に基づく温度分布解析の連成解析による巻線内の電流および温度分布の詳細数値解析プログラムを構築することである。 最終年度となる次年度(平成27年度)では,これまで開発した数値解析プログラムを利用し,1)非絶縁コイルが局所的常伝導転移発生時のコイル内の過渡的な電流・温度分布の評価,2)銅安定化層厚みが非絶縁コイルの電流密度・熱安定性に対する影響の評価;3)コイル内非均一な層間接触抵抗を与える時における非絶縁コイルの熱安定性の変化について解析と実験の両面で行う。それらの結果により,非絶縁コイル巻線方式の成立性および有効性を検証し,この方式を利用した高磁場精度・高電流密度・高熱的安定性の高温超伝導コイルシステムを実現するための基盤技術を確立する。
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