研究課題/領域番号 |
26820102
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高橋 康人 同志社大学, 理工学部, 准教授 (90434290)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 磁気特性 / 電磁鋼板 / 鉄損 / ヒステリシス / PWMインバータ / 並列計算 / 有限要素法 |
研究実績の概要 |
2015年度は,並列化TP-EEC法に基づく磁気ヒステリシスを考慮した時間領域並列有限要素法の開発,マイナーループを含むヒステリシスループにおける高精度鉄損評価技術の開発,ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルに関する基礎検討を行なった. 磁気ヒステリシスを考慮した磁界解析は,現在の磁化状態が過去の遷移状態に依存するため本質的に過渡解析が必要となるが,定常解を算出する際には未知変数のみならず各要素の磁化履歴も補正しなければならない.そこで本研究では,時間領域での並列計算法である並列化TP-EEC法に着目し,ヒステリシス磁界解析のための汎用的定常解高速求解法の開発を目差した.具体的には,並列化TP-EEC法より算出される1(半)周期の磁束密度の時系列波形を用いて未知変数に加えて磁化履歴の補正も行うことで,適切なヒステリシスループが定常状態として得られる.前年度に策定したスカラヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルや,PWMインバータ駆動IPMモータへ適用し,開発手法の並列台数効果や実機解析における有用性を検証した. 一方,正弦波励磁下と比較して,PWM励磁下では複数のマイナーループを有するため,鉄損の高精度な算定が一般的に困難となる.そこで,高調波が重畳された励磁条件下における鉄損を,マイナーループ損およびマイナーループ損を除いた損失に分離し,それぞれを別個に推定する方法を提案した.その結果,直流重畳特性を用いてマイナーループ損を,交流特性を用いてマイナーループ損を除いた鉄損を推定することにより,高調波重畳時の鉄損を精度良く推定することが可能であることを明らかにした. さらに,異方性の小さい冷間圧延鋼板を用いた閉磁気回路のヒステリシス磁界解析を実施し,ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデル策定に向けた寸法・形状に関する基礎検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目以降の検討課題は,①時間領域並列化有限要素法による高速ヒステリシス磁界解析技術の開発,および②ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルによる各種モデル化手法の有効性検証である.これらの課題に対して,①並列化TP-EEC法と要素ごとの暫定的な磁束密度波形による磁化履歴の補正を組み合わせることで,任意励磁条件下のヒステリシス磁界解析において定常解を算出する新たな並列有限要素法を開発し,実機解析における有効性を明らかにした.また,②各種電磁鋼板のベクトル磁気特性測定を実施しデータベースの拡充を図るとともに,ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークとして望ましい特徴(構造が簡単で二次元励磁が容易)を有する閉磁路モデルの基礎設計を行った.さらに,非正弦波励磁下においてマイナーループを個別に評価する鉄損算定法を開発し,初磁化曲線に基づく通常の磁界解析の後処理でのみヒステリシス特性を考慮する簡便な鉄損算定法のさらなる実用性向上を達成した.以上より,当初の計画に従っておおむね順調に研究を遂行できたと考えられる. 研究設備に関しては,初年度内に必要なソフトウェア・ハードウェアの整備はほぼ完了している.また,2年目以降の重点課題である研究成果の発信についても,上記に関連して国内外の学会参加・論文投稿を行っている.研究成果の発信は,3年目にさらに積極的に取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には,ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルの設計・作製・測定や各種ヒステリシス磁界解析手法による評価,および時間領域における並列有限要素法による高速ヒステリシス磁界解析のさらなる実用性向上に関する検討を行う. ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルとしては,磁気特性の影響が顕著に現れる閉磁路で,かつ構造が簡単であることが望ましい.そこで2015年度には,二次元励磁が容易な閉磁路構造の基礎検討を行った.最終年度には,まずは等方性ベクトルヒステリシスに焦点を絞り,田形の閉磁路モデルを設計し,異方性の影響が小さい冷間圧延鋼板を用いて実機を作製する.また,ヒステリシスモデル同定のための磁気特性データ取得を目的として,角度方向別単板試料および円形試料を準備し,交番励磁下ヒステリシスループおよび回転損を測定する.これらの磁気特性データを電気学会調査専門委員会などにて公開し,実測結果と各種等方性ベクトルヒステリシスモデル化手法を用いた磁界解析結果を比較することで,計算精度・コストやモデル同定の容易さなどの観点から得失比較を実施する.また,上記の結果を踏まえて,異方性ベクトルヒステリシスモデル検証用ベンチマークモデルの策定を視野に入れた基礎検討も行う. 一方,並列化TP-EEC法に基づく磁気ヒステリシスを考慮した時間領域並列有限要素法について,2015年度までにリング試料やIPMモータを対象として有用性を明らかにしてきた.最終年度は,すべりにより複雑な周期現象を有する誘導機解析にまで本手法を拡張することを目指す. 本研究課題のまとめとして,研究成果の国内外学会での発表・論文への投稿を行い,最終年度は積極的に情報発信を進めていく予定である.
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