研究課題/領域番号 |
26820108
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
吉永 智一 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 応用科学群, 講師 (30467899)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 二次電子放出係数 / 数値シミュレーション / パッシェン曲線 |
研究実績の概要 |
平行平板電極間の放電においてイオンおよび光子の陰極への流入束が放電条件によって異なる特性を利用し、これらの粒子に対する電極材料の二次電子放出係数(γiおよびγp)を絶縁破壊電圧の実測値から求められないか、数値的に検討した。モンテカルロ法によって電子の飛跡を追跡し、発生した電離衝突および励起衝突の回数を計数し、これらによって生成されるイオンおよび脱励起光流束を簡単な1次元線形モデルを仮定して評価した。 アルゴン単一気体を対象に、絶縁破壊電圧を推測し、Paschen曲線を求めた。これを参考文献で報告されている実測値と比較すると、Paschenミニマム近傍ではある程度一致するものの、高いpd条件下では推測値が実測値よりも高くなった。準安定励起種の累積電離およびPenning電離が一つの要因として考えられたが、アルゴン中の準安定励起種の生成数は高pd下でもさほど大きくないことがモンテカルロ法から示唆された。そこで、新たなパラメータとして、陰極に衝突した電子の反射係数を導入してモデルの拡張を図った。陰極で放出された二次電子が後方拡散を受けて陰極に再流入する効果は高pd条件で顕著となり、電極表面での反射があれば、放電空間内に流入する電子数が実効的に増大すると考えられるためである。特に、金属電極の反射係数は0.2~0.5程度と大きいことが報告されている。この反射係数の設定により、Paschen曲線(推測値)の精度の向上が確認できた。一方で、誘電体についての反射係数の報告は多くなく、これについての知見を提供できる可能性があると期待している。 上記のモデル拡張と併せて、アルゴン・ネオン混合ガスにおけるPaschen曲線の再現も試みたが、累積電離とPenning電離を考慮しない線形モデルでは、実験報告にあるような高pd下での複雑な構造が確認できず、再現精度が不十分な結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
モンテカルロ法で求めた気体中電子の電離衝突・励起衝突回数を用いてイオンと光子の電極への流入束を推定し、Paschen曲線を推測できることを確認した。また、電子の電極表面での反射係数が一つの重要なパラメータであり、二次電子流束の評価に組み入れる必要があることがわかった。このことを逆利用して、実験的に得られたPaschen曲線にフィッティングする形で、イオン・光子それぞれに対する二次電子放出係数を推定できる可能性が示唆された。単一アルゴン気体中では十分な精度でPaschen曲線を再現することができた。一方で、アルゴン・ネオン混合ガス中においては、1次元線形モデルによってPaschen曲線を十分に再現できず、非線形モデルの適用が必要となることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
実験的に得られたPaschen曲線を再現すべきパラメータとし、線形一次元モデルを用いてイオンおよび光子の二次電子放出係数を求める手法を提案し、アルゴン単一ガスを対象として良好な結果を得られたものの、アルゴン・ネオン混合ガスについての再現精度が依然不十分となっている。混合ガス中では、累積電離・Penning電離といった非線形項の影響が無視できなくなっているためと考えられる。線形一次元モデルは放電条件を解析的・一意的に求められるというメリットを持ち、有用であったが、今後の研究では混合気体の再現精度の向上を目指し、非線形項を加えた一次元数値モデルを用いて解析を進めるとともに、これまでの結果をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の研究において、電子-分子間衝突断面積の評価に使用した文献「Handbook of Molecular Physics and Quantum Chmistry」(分子物理学・量子化学ハンドブック)の購入額が、想定を大幅に下回る額に抑えることができたため、差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
論文投稿費および関連情報の収集にかかる費用に充当する予定である。
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