金属または誘電体電極の二次電子放出計数γを導出するための一般的な方法として、平行平板間の絶縁破壊電圧を実測し、Townsendの火花放電条件に適用する手法がある。火花放電条件を用いることの問題点は、電極から二次電子を叩き出す粒子種が実際にはイオン・光子等様々であるにも関わらず、γが電極へのイオン流入流束のみに対する二次電子放出流束として定義されている点である。 本研究では、放電空間におけるイオン発生数および光子発生数を数値的に見積もることによって、これらの粒子に対応する二次電子放出係数を、粒子種毎に求めるための手法の提案を目指している。陰極を発した初期電子が陽極に到達するまでに起こす電離衝突(イオン発生)回数および励起衝突(光子発生)回数をモンテカルロ法に基く軌道計算によって計数し、陰極に流入する各粒子流束を評価する。こうして求めた各粒子流束に、それぞれの粒子種に対応するγ(γi、γp)を乗じ総和を取ったものが1となる条件が、火花放電条件に代わる新しい放電条件となる。 これまで、アルゴンおよびネオンを対象に、γi、γp、ならびに陰極の電子反射率Rをフィッティングパラメータとして解析を行ってきた。新たなパラメータとして、これらに初期電子の平均エネルギー(分布はMaxwell分布を仮定した)を加え、文献値(実験値)すなわち絶縁破壊電圧の圧力依存性(Paschen曲線)をよく再現するパラメータの組み合わせを探索した。双方の気体について、フィッティングによって得られたPaschen曲線は、実験値を非常によく再現した。アルゴンについては、導かれた平均初期電子エネルギーも文献値によく対応した。一方で、ネオンについて得られた平均初期電子エネルギーは、文献および理論的考察から推測される値より低く、絶縁破壊電圧のみに基く手法の限界と、異なる拘束条件を追加する必要性が示唆された。
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